全てを見るのは難しい!「KING OF 高槻城」
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- 今日は壱劇屋の俳優、湯浅春枝さんにお話を伺います。湯浅さんは最近、どんな感じでしょうか。
- 湯浅
- よろしくお願いします。最近は客演が続いてたのが終わりちょっとひと段落したかなっていうところですね。
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- お疲れ様でした。
- 湯浅
- いえいえ、ありがたい話です。
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- ひと段落した上で、今年のクリスマスは壱劇屋の次回公演「KING OF 高槻城」ですね。
- 湯浅
- そうなんですよ。クリスマスなんです。
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- チラシにもある通り、「KING OF 高槻城」はイマーシブシアター。つまり、観客が劇中に自由に劇場を歩いて体験するタイプの演劇作品ということで。しかし実は、壱劇屋はもう10年くらい前からイマーシブシアターを手掛けられていますよね。
- 湯浅
- 2014年の「ルミエール・ダンジョン」から始まっているので、かなり長いとは思いますね。
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- ルミエールは私も見ました。積極的に参加することで楽しくなる作品でした。しかし今作は、高槻城公園芸術文化劇場の南館を丸ごと使うとチラシにありますが・・・
- 湯浅
- これまで壱劇屋がいろんな場所や公演形態で積み重ねた、イマーシブシアターのノウハウの集大成になりそうです。規模も過去最大で、実は今年の頭に高槻城公園芸術文化劇場で「地底人セレモニー」を上演したんですがこれは地階のみで、アテンダー(俳優)がつかない、お客さんがそれぞれの意思で動けるという。これはこれで新しかったんですが、今回はその形式プラス、今までやってきた形式のハイブリッドでもあるんです。
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- あの広い劇場をフルに使うとなると、一回じゃ見きれないのでは・・・
- 湯浅
- そうなんです、さすがに全通ししても全てを見るのは難しいと思います。「7回全部参加しても無理ですよね」って。まあそういう演劇があってもいいんじゃない?という話をしています。
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- イマーシブシアターは、パートとパートのつなぎ目など、不測の事態への対応力が求められそうですね。
- 湯浅
- 客席と舞台がなく、すぐ横にお客さんがいるので、俳優の精神力というか、素に戻りそうになるのを乗りこなしつつ、一期一会を楽しむ感じです。今回の客演であるシイナナのあっぱれ北村さんが最近言ってくださった言葉で、「壱劇屋は本番始まったらお客さんと同じぐらい演者の俺たちの方も楽しい」と。
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- お客さんのノリや熱量も高いので、それに俳優も当てられて、本番の掛け合いで上がっていくのが忘れられなくなるんでしょうね。
KING OF 高槻城
劇場全体を使ったイマーシブシアター 劇団壱劇屋本公演 『KING OF 高槻城』作・演出:大熊隆太郎。2025.12.25-28 会場:高槻城公園芸術文化劇場 南館全館。
STORY:大阪と京都の狭間に位置する高槻城。
明治7年に廃城となり、史跡として威風を残していた。
しかしこの令和7年の年末、突如として高槻城が復活!!!
それに目をつけた大阪人と京都人が高槻城を我が城にせんと城攻めを敢行。
「高槻は我が地なり!」
これを聞きつけた奈良人、兵庫人、滋賀人、和歌山人も参戦し、高槻戦国時代に突入する。
令和の高槻城主の座はいったい誰の手に!?
気づけば飲み込まれてる
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- 今年は湯浅さんは喜劇結社バキュン!ズの「絶対そのうち誰か怪我する」に客演されていましたよね。大変面白かったです。ご自身としてはどんなご経験になりましたか?
- 湯浅
- ありがとうございます。ここ数年「演劇は楽しいけどちょっとしんどいな」と私の中の天秤が揺れていたんです(そこまで重い話じゃないんですけど)。で、バキュン!ズの千穐楽前に、リモートで本番の様子を見ていたスプーン曲げ子さんにフィードバックを聞いたら色々お話いただいた後に「でも、結局は楽しんで」と言われて。「そうやんな」と思ったんです。
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- 「結局は楽しんで」。
- 湯浅
- いつもと違うフィールドで、「どうやったら面白くなるんやろう」「どうオーダーをクリアしよう」とずっと悩んでたんですけど、その一言で軽くなったというか。「あ、純粋に楽しいって思ってやっても良いんじゃないか」って。風穴が開いた感覚でした。
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- 努力して苦しむ状態から、楽しさに目を向けるようになったんですね。
- 湯浅
- そうですね。私は割と、自分の出来なさに目を向けがちで。「私は今楽しいんや」って素直に思うところを「できない」で蓋をしてたのかなって。でも曲げ子さんのその言葉を聞いた時「できない」と「楽しい」は並列のとこで共存していて、まあそれはそれでいいよねと。視野が変わりました。
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- もしくは視点が変わったのか。これまでは苦しさしか見えなかった位置にいたのが、楽しさも目に入る位置に移動したのかも。
- 湯浅
- ありがたかったですね。楽しかったし、スキルも身についたし、人の輪も広がって良かったです。
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- ものの見方が変わるって面白い経験ですよね。バキュン!ズの作品も奇しくも似たところがあるように思います。スラップスティックから始まって、最後は芸術的で詩的な世界観になっていく。コメディだと思っていたら、ちゃんとアートの芝居になっている。
- 湯浅
- そうなんですよ。入口で面食らってたのが、気づけば飲み込まれてる。すごい引力だなと思います。「いいもの見た」なんだけど、何が残ったかと言われたら「面白かった」ということが残るという。
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- バキュン!ズの魅力をもっと知らしめたいですよね。
- 湯浅
- そうなんですよ。今「知る人ぞ知る」みたいになってるので。
喜劇結社バキュン!ズ 第5回公演「絶対そのうち誰か怪我する」
公演期間:2025/5/30~6/1。公演会場:in→dependent theatre 2nd
デスワンダーランド
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- 壱劇屋の今年の6月公演「デスワンダーランド」。残念ながら劇場には参れませんでしたが配信で拝見しました。壱劇屋の身体パフォーマンスが前回のハラハラするほど鮮やかな演出が連続する作品でしたね。湯浅さんは神様役でしたね。
- 湯浅
- ありがとうございます。ローブを着た、どこかの教祖様みたいな神様でした。
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- ご自身としてはどんなご経験でしたか?
- 湯浅
- まず新感覚というかやってる側も面食らってました。「人の背中踏んで櫓(やぐら)を組むなんてあるんですか」「吊るされながら歌うんですか」みたいな・・・
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- 組体操とダンスと歌と、もはや何がどうなっているのか分からない舞台の移動方法とかが渦巻く作品でしたね。
- 湯浅
- ここ最近、大熊さんが「明るい話をしたい」「誰も死なない作品がいい」と言っていて。とにかく派手で、すごい宴会芸やってる気分でした。あっという間に終わるけど、やってることはすごいボリュームで。短いのに疲れちゃう。けど「もっと見たい、けどこれ以上やったら保たへんな」っていう、不思議な感覚でした。
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- やっぱり壱劇屋はすごいパフォーマンスというか、ダンスでもバレエでもない、謎の身体表現ですよね。
- 湯浅
- そうですね。「どういうジャンルなの」って聞かれたら、「うーん、身体表現かなあ」ってなりますね。
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- いろんな楽しさを持つ劇団ですね。
劇団壱劇屋本公演「DEATH WONDERLAND」
公演期間:2025/6/13~14。会場:神戸朝日ホール。 STORY:リアリストのシゲオ。無神論者。オカルトの類はフィクション。闇を恐れるのは死を回避するための設計通り。高所や暴力に恐怖するようなもの。死後の世界など以ての外。そう主張するシゲオの時刻は早送りされ老衰で息絶えた。朽ちたシゲオは黄泉の国で目が覚める。壊れた脳が見せている幻覚であると解釈するが、生涯独り身を貫いたシゲオの前にどストライクな女人が現れ、彼女が指差す方を見やると生き別れた父母が歩いている。奇天烈なあの世で愛を取り戻せシゲオ。
壱劇屋が15周年に上演し、爆笑と困惑と感動の涙を攫った伝説の作品を再演。
何してても目が行く
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- 湯浅さんはいつから演劇を始められたのでしょうか。
- 湯浅
- 高校演劇からです。文化祭にすごく力を入れてる学校で、全クラス・全学年が絶対2回は演劇をするんです。担任が国語科の先生で、1年目から「湯浅は絶対に役者をやるべきだ」と言われて。私はそんなに積極的な子ではなかったので断ったら、「じゃあ脚本はどうだ。表に出ないなら、絶対にそっちに才があるから」と、脚本や演出に関わり出したのが事の発端です。
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- noteに脚本を公開されていますもんね。先生は湯浅さんの才を感じていたんでしょうね。
- 湯浅
- 似たようなことを是常さんやほかの俳優の方から言っていただいたことがあります。「あの子は何してても目が行く」って。「小さい」っていうのもあるし、自分で言うのもなんですけど、そんなにスタイルがいいわけでもない。でも、それが武器になっていると思います。フラットな場だとポジティブではないかもしれないけど、舞台という嘘のフィールドなら、ある種記号的である方が「あ、あのちっちゃいあの子ね」と覚えてもらいやすい。1番手じゃなくて、2番手でポイントをとっていく戦い方ができる。やりたいけどやれない鬱憤みたいなものがガソリンになって、舞台ならアクセルを踏める。壱劇屋ではぴったりでした。(壱劇屋の)バラエティ班というか、飛び道具的に。
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- 戦略的でいいですね。壱劇屋に入られたきっかけは何だったのでしょうか?
- 湯浅
- 大学の演劇部(学園座)でも活動していましたが、卒業して一回演劇はもういいやって就職して自衛官になったんですけど、社会人演劇をやってる先輩に「増員で出てくれないか」と誘われて舞台に出たら、「お?まだやっぱり未練があるかもしれん」と思いだして。その後、自衛官を辞めて、次何かしようと思った時に「演劇やりたいな」って。社会人劇団を探していたら、壱劇屋の劇団員募集があったんです。当時、生で見たことなくて。
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- そうなんですね。
- 湯浅
- 観劇三昧の配信で、画面の中では見ていて。「すごいな、出来ひんことができるようになったら面白いやろうな」と思ってた団体が募集をかけてて。その日が消印有効日だったので、ダメ元で勢いのまま応募しました。
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- 実は個人的に「あ、湯浅さんに取材をしなければならない」と思っていたんですが、そうこうするうちにタイミングを逃してしまって・・・
- 湯浅
- ありがとうございます。逆に質問なんですが、なぜ私にインタビューをと思っていただいたんですか?
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- キャラクターが立っているからかな。いや、というか私が取材させていただいた時の壱劇屋のメンバー10人、とにかく愛嬌がすごくて。そこが本質だと思っているんです。湯浅さんが入られたときに「あ、この人もだ」と思っていつか取材したいと思ってました。
ロールケーキの話
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- 壱劇屋東京支部が出来てもう結構経ちましたしね。そちらの方についてはちょっとまだ流れを追い切れていないのですが・・・。
- 湯浅
- 劇団員ですら追い切れていない時ありますよ。「東京支部っていま何人いらっしゃいます?」みたいな。大熊さんも「会ったことまではあると思うんやけど、そっから先はもう分からへんわ、親戚のおじさんポジションみたいになってる」って。
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- なるほど。大阪壱劇屋のムードはどうですか?
- 湯浅
- 良くも悪くもサークルみたいにフラットです。以前はトップダウンで、「とりあえず動いて間違えて経験値を増やす」感じでしたが、今は「ちょっとストップ、これどう思う?」という投げかけや、みんなで考える時間も増えました。
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- 話す時間が増えたんですね。
- 湯浅
- 動き出すのは遅くなるんですけど、意思疎通ができている分、トラブルシューティングはスムーズです。人数少なさ故の良さというか。
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- メンバーのコミュニケーションスキルが底上げされている状態なんでしょうね。
- 湯浅
- そうですね。「粗筋(あらすじ)これです、さあどう膨らませましょう」から、誰かが意見を出したら「その心は?」と深掘りして、一見無駄に見えても種を蒔き散らせるのがいいのかなって。
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- 以前と比べて今はどう感じていますか?
- 湯浅
- 東京と大阪は、それぞれ違う環境だと思います。東京は私が入団した頃に感じていたような、ソリッドな現場の空気感に近いのかも、と思っています。
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- まあその態勢でしかできない事もありますからね。
- 湯浅
- トップダウンに近い環境だと、大枠の中を最短で走れる良さはありますよね。今の形(フラット)だとどう動くのが正解か、キャラクターをどうするか、めちゃくちゃ俳優に委ねられているんです。大熊さんも「キャラクターは自分で作って持ってこないと演出はつけにくい」って。
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- それは大変ですね。
- 湯浅
- ベテランの客演陣は自分の経験や解像度で作ったキャラを出されるのですが、劇団員として長くいると「キャリアを積む」って何だろうと考えることもあります。裁量は大きくなるけど、俳優としての伸びはどうなんだろうって。
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- そうですね。自由度が高い分、課題設定が難しくなる。
- 湯浅
- どっちがいいっていうのは、多分、状況に応じてそれを変えられるのが多分一番強いんだろうなって思うんですけど…グレーな感じの会話をしてしまって申し訳ないです。
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- いえ、いいと思います。多様な想念を掲載するサイトなので。トップダウン型に比べて、大阪壱劇屋は個人が突出するということはもしかしたら実はそんなに求められてはおらず、「和」というある種のみんなが動きやすい環境なのかも。そこでは「目立つ」ためのアグレッシブさはそれほど求められないかもしれない。しかし、それはもちろん外部に伝わっていて、お客さんもその雰囲気というのを、だいぶ見せられてるところはあるだろうなっていう気はします。
- 湯浅
- そうですね。それを踏まえて「普通の演劇とは違う形で、今回は何をしてくれるんだろう」って思っていただけたら、多分、今の大阪の壱劇屋としては一番嬉しいんじゃないですかね。
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- それはなんと呼べばいいんだろう。ロールケーキ型組織?
- 湯浅
- ロールケーキいいですね。
質問 大田春彦さんから湯浅春枝さんへ
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- 前回インタビューしたゲスワ◎の大田春彦さんからの質問です。「演劇を通して達成したいことがあれば教えてください」。
- 湯浅
- 難しいですね・・・今パッと浮かぶのは、「自分と世間に折り目をつけたい」。
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- 折り目をつける。
- 湯浅
- 演劇は他者とのコミュニケーションツールだと思っていて。「売れたい」とかではなく、演劇を使って社会の中における自分を確認したい、輪郭をはっきりさせたいんです。つい流されてしまうから、「私はこう思って社会にいるんだ」というラインを、自分に納得させたいのかな。
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- 自己を確立させたいということとはまた違いますか?
- 湯浅
- そうですね。自己を強く確立したい、というよりは、社会との関係性の中で自分の形を確認する、という意味合いに近いです。内向的な部分も含めて、「これが今の自分だ」と思える基準を整えたいんだと思います。
演劇から足が遠のいている人に
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- どんなお客さんにこそ、壱劇屋に来てほしいですか?
- 湯浅
- 個人的には「演劇ってお堅いんでしょ」、体験型演劇なら「じっとしてるのちょっと苦手」と思っている人など、演劇から足が遠のいている人に見ていただきたいです。うちでなくとも別の劇団も含め、いろんな作品に触れてもらえれば嬉しいので、一回ウチでリハビリしてみませんか?と思います。
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- リハビリのファーストステップとして。
- 湯浅
- そうです。演劇って、チケット代も高いし、当たり外れがあるガチャみたいなものじゃないですか。
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- 本当にそうですね、1回における投資が大きすぎますから。
- 湯浅
- だからこそ、「いつもと違うとこに行くぞ」というその一歩を楽しんでほしい。今回のイマーシブシアターは特に配信できない体験ですし。
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- 生の人間の演技を見るのは、そのエネルギーを直で浴びるためにそれはもう疲れますが、画面越しではできない体験ですよね。今回は動かなくてもいいコースもあるとか?
- 湯浅
- そうなんです。足腰が心配な方や、「見るに徹したい」という方もいらっしゃるので、座ったままでも完結できるコースを用意しています。
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- それはいいですね。
- 湯浅
- どんなスタンスでも、楽しんで持って帰れるものがあると思います。
煎茶用のお茶碗
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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントがあります。
- 湯浅
- ありがとうございます。
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- どうぞ。
- 湯浅
- 開けてみていいですか・・・(開ける)おお素敵。
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- 煎茶用の茶碗ですね。