ぼーっとしていられない

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- 今日はよろしくお願いします。今日はあたらよの鴨梨さんにお話を伺います。最近はいかがですか?
- 鴨梨
- よろしくお願いします。本公演も終わって、少しのんびり過ごしています。でももう次の稽古が始まっていて、実は全然ぼーっとしていられないです。でもそれも含めて楽しいです。
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- たしか、次の本番は6月でしたっけ?
- 鴨梨
- そうです。お友達の武田暢輝くんが主催するユニット「ににふに」の「空っぽになったことなんてない」に役者で出ます。親友の乱痴パックちゃんと共演します。暢輝くんとは豆企画の「風の又三郎」がきっかけで、橘さんともその時にご縁ができました。
あたらよ
演劇をするあたらよ。関西の劇団。京都学生演劇祭2020 「会話劇」最優秀審査員賞受賞。第8回30GP「30分だけ想ってあげる」ノミネート
ユニットににふに
京都を拠点にする劇団「安住の地」派生ユニット/脚本・演出:武田暢輝(@nbkiT127)/2025年6月「空っぽになったことなんてない」2025年10月「微睡みが黄色くなる前に」
ユニットににふに第0回公演「空っぽになったことなんてない」
作・演出:武田暢輝 (安住の地) ■日時:
2025年6月13日(金)-6月15日(日) ■会場:Alternative Space yuge
って思う瞬間
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- あたらよ「とびいし、無視」大変面白かったです。ご自身としてはどんな経験でしたか?
- 鴨梨
- あたらよは今のところ全部自分で脚本を書いて演出もしているんですが、とにかく会話が面白くなればいいなと思って書いています。今回はそれが出来たんじゃないかなと思っています。
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- 先立って開催されたC.T.T.京都にて、あたらよが上演した「ういしぃ。」は本作「とびいし、無視」の前半部にあたる短編でしたが、大変面白く、本公演を楽しみにしていました。あらすじとしては登場人物の青年「由良くん」が、2024年12月23日に橋から飛び降りてしまい2025年の夏にタイムスリップしてしまうというSFが織り込まれた戯曲でしたね。由良くんはしかし特に何か行動を起こすわけでもなく、人の家に居候してゲームばかりしている。まず個人的にはその気持ちがすごくよく分かりました。何もしたくない、前に進みたくない、成長したくない、みたいな気分。つまりモラトリアムがキーワードなのかなと。
- 鴨梨
- そうだと思います。2025年に来て、自分が何か動いたら世界が変わっちゃうかもしれないって言い訳してるけど根本はそこじゃなくて。これは私の考えなんですけど未来の自分がどうなっているのか知るのが怖いタイプだと思うんです彼は。自分はうまく生きられていないと思っているタイプ。本当はもしかしたら会いに行ってるのかもしれないですけど(脚本は私が書きましたが、いろんな解釈があっていいと思うので)。
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- 由良くんは、そもそも自分の生き方自体が分からなかったのかもしれませんね。上演台本に収録されていた後日談を読みましたが、彼の内面が少し分かった気がします。
- 鴨梨
- 由良くんに重たい過去みたいなものはなくてもいいかなと思っていました。私自身も彼の状況や気持ちはすごく分かるんですが、それは別に重たい過去があってもなくても陥るものだと思っています。でも、役を作る上ではどうしても背景があったほうが近づきやすいかなと思い、スピンオフでそのあたりも書きました。
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- なんとなく日々が楽しくない、楽しくならない、何なら楽しく過ごしたくないって思いを抱えている人って多いと思います。由良くんもそのタイプかなと。
- 鴨梨
- そう思います。誰にでも、由良くんが陥っていたようなポケットみたいな時空間や精神状態になること、あると思うんですよ。
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- 彼の居候先である里見さん、その会社の後輩である倉持ちゃん、よく行くコメダ珈琲店長の三宅さんが登場人物の全てでしたね。個人的に特に気になったのは倉持ちゃん。この人は由良くんを里見さんの部屋から追い出そうと行動するんですが、彼女の最後の独白が印象的でした。倉持ちゃんもまた、2024年12月23日に橋から飛んでしまおうとしていたということが明らかになって。
- 鴨梨
- あの作品はその独白から書き始めたんです。あれは実際に鴨梨が2024年12月23日バイト終わりの帰り道に思ったことでした。実際はそんなことしないけど、「もういいかな」って思う瞬間があって。その時、ダウンの中の体が温かくて、でも風が触れたおでこが冷たくて、気持ちよかったんです。その時に「これは忘れちゃいけないな」と思って書いた詩というかポエムをメモしておいたんです。それが「とびいし、無視」の始まりでした。私は親にも愛されて順風満帆に育ってきたし、友達もそこそこいるけど、やっぱりそういうことってありますよね。もしかしたら明日、誰かを傷つけてしまうかもしれない。死んでしまうかもしれない。自分のことが分からないなら、他人のことなんてもっと分からないなあと思いながら脚本を書きました。だから、稽古場でも登場人物が何を考えているのか分からない瞬間がたくさんあって、それぞれがそれぞれの感情で立って、意味の分からないリアクションをしたりして、とても楽しかったです。演出している時にそれが見えてくるのも楽しいですね。
あたらよ 第6回公演「とびいし、無視」
公演期間:2025/4/18~20。会場:KAIKA。
光に包まれて

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- 自分が真っ白い光に包まれている感覚、私も経験があります。ストレスがすごかった時代、駅のホームで劇団からのメールを読んだ時、会社と劇団の板挟みになっていた瞬間でした。
- 鴨梨
- その時、自分のことが俯瞰で見えません?なんか、すごく冷静で落ち着いているんですよ。大丈夫ですかね、この話。
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- 読んでいる人には伝わると思います!
- 鴨梨
- 分かってくれるかな。みんなあると思ってます!
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- その時に書いたメモを戯曲に発展させて、それを稽古場で立ち上げると人間が見えてきたと。
- 鴨梨
- その瞬間はとても楽しかったです。みんな私が書いたセリフをそのまま読んでくれているけど、でも私が書いたセリフだと思えないくらい、この人たちは自分とは違う人なんだ、これはその人なんだ、って感じます。演出や脚本をやりたいのは、そこに理由があると思います。
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- あたらよでは、どんなクリエイションや稽古を心がけていますか?
- 鴨梨
- みんなでお話できたらいいなと思っています。みんなのことを知りたいし、これは傲慢かもしれないけど、お互いにたくさん知って、何が好きかとか苦手かとか、そういう話をいっぱいしたいです。なかなかそういう時間って難しいんですけどね。どうしても脚本のことにかからないといけないし。今回ももっとおしゃべりしたかったけど、最低限しかできなかったのが悔しいです。
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- それはお気の毒でしたね。
- 鴨梨
- お気の毒です。クリエイションというか、もっとみんなと仲良くなりたいです。
後ろ姿

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- 由良くんが未来の自分を見に行かなかった理由について、ちょっと伺えればと思います。行くどころか、部屋から出ずにずっとゲームで時間を埋めようとしていましたね。
- 鴨梨
- 未来の自分が死んでしまっている可能性もあるし、何も変わっていなくても嫌だし。どう変わってるのかを確かめるのが怖かったんだろうなと思います。でも、由良くんは「自分は逃げている」と自覚していると思います。
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- それでも事実を確定させるのが怖かった、という心。倉持ちゃんには分からなかったのかもしれませんね。だから追及した?
- 鴨梨
- 倉持ちゃんは、問題を解決したいんでしょうね。今をちゃんと生きている子なので、「もういいかな」と思うような瞬間が来ても、今日ちゃんと生きていく。里見さんのことも好きだし。由良くんのことは、分からないというより何だコイツと思っていたのかもしれない。
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- 由良くんにとっては、倉持ちゃんは純粋に怖かったかもしれないですね。
- 鴨梨
- 怖かったでしょうね。嫌なことに向き合わせようとしてくる人ってしんどいというか。ありがたいんですけどね、そういう人は大切かなと思う瞬間は生きていて絶対にあるし、逃げるだけじゃなく、どうしても向き合わないといけない瞬間ってあると思う。その時にちゃんと引っ張ってくれる人は大事だと思います。由良くんにとっては必要な人だったんじゃないかなと思います。
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- うーん、倉持ちゃんは由良くんに、なぜあそこまで怒っていた、というか構っていたんでしょうか。
- 鴨梨
- それは普通に、里見さんの家に不審者がいるから(笑)。警察を呼んだら大事になるし、もちろんそれが根底にありつつ、あそこの橋から飛び降りようとしていたという話が自分の身に覚えがあって。倉持ちゃんはそこから問題を解決しようと動く子なんですね、きっと。だから由良くんのことが気になっていたというか、里見さんの存在が大きいと思うんですけど。
怒るのがめんどくさい?

- 鴨梨
- 登場人物のみんなが怒らなさすぎるんですよ。お客さんからも「なぜみんな怒らないのか」って感想がありました。倉持ちゃんも結局由良くんを受け入れてるし。なんかみんな怒るのがめんどくさいんだろうなって思います。ことを大きくするのがめんどくさいから、なあなあになってしまう。
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- 自分たちの中で飲み込んで乗り越えたのかもしれませんね。シリーズ映画の1作目では敵だったのに2作目では友達としてニコニコ笑いながら出てくる人みたいに。
- 鴨梨
- 全部自分に置き換えて話しちゃうんですけど、何か確執があった人を許せてしまう自分に酔っぱらうことってあると思うんです。いい意味でも悪い意味でも。嫌いばっかりになったら人生嫌じゃないですか。なので、許せるものは許したい。仲良くなれるならそっちの方がいい。人間、流せちゃうのはすごいですよね。すごいと思います。
里見さんについて
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- 由良くんは、居候先の里見さんとはあまり深い話はしなかったんですかね?
- 鴨梨
- してないと思います、里見さんは聞かないと思います。
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- 私もそう思います。
- 鴨梨
- なんで里見さんが由良くんを部屋に置いてるのか全然分かんなかったです。しかも恋愛感情もないとか言うし、里見さんが一番不思議だったな。何を考えてたのか私も聞きたいです。
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- そうですね。
- 鴨梨
- それでも橘がやると成立していたのか謎ですね。私の中で、お母さんみたいな人だったと思います。じゃがアリゴ、美味しいと言われたから何回も食卓に並べたり。そのあたり、めちゃめちゃお母さんだなと思ってて。ちょっと寂しがり屋のベクトルも、うちの母と似てるんですよ。異様なまでに世話を焼いてくるところとか。
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- 里見さんは何をしたら怒るんでしょうね・・・
- 鴨梨
- 何をしたら怒るんでしょうね。それこそ無償の愛の人なのかもしれないなあ。私はコメダ珈琲店長の三宅さん、冷たいというかいい意味ですごく大人で例えば悪いことしても怒ってくれなさそうな気がしていたんですが、里見さんこそそうなのかなと思いました。人は人、自分は自分。根源的なところでブレないから怒らない、そんな人なのかなと思いました。あ、多分、洗面所をビショビショに使っていたら怒ると思います。家の鍵を閉めてなかったりだとか。
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- なんだか人間関係の感覚に、世代間ギャップを感じます。関わり合うということの定義が結構違うような気が・・・私の世代は、居候と家主はものすごく深い話をするものだと思ってました。
- 鴨梨
- それは由良くんと倉持ちゃんの関係性の方が近いかもしれません。里見さんは誰とでも仲良くできるタイプで、倉持ちゃんの方はそんな一面を見て寂しがるタイプ。
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- 里見さんは、自分の城というか、ブレなさがまず生き方の大事なところにあるのかな。だから誰とでもコミュニケーションが取りやすい。
- 鴨梨
- 人からどう見られるかというのがあんまりないのかな。そういうのを気にしても仕方ないじゃん、とすらも思ってないかも。どう育ったらそうなるんだろう。めちゃくちゃ愛されてたのかな。
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- 社会との関係性はともかく、自分の周囲が安定しているかどうか、なのかも。だから、由良くんが部屋を出て行く時にもあんまり気にしてなかったみたいだし。
- 鴨梨
- そうですよね、結局自分がちゃんとある人だからこそ、相手もそうだと自然に思っていて、尊重ができるのかもしれないですね。里見さんがめっちゃ好きですね。三宅さんは勝手に幸せになっててほしいです。
足を踏み出す

- 鴨梨
- 友達と遊んでいても一人ぼっちに感じる時間が私にもあるんですが、由良くんはそれをずっと感じていたんじゃないかな。要らない心配をずっとしてしまうというか。自分はうまくできているだろうか、自分はきっと喋れていない、とずっと感じてしまうタイプなので。由良くんもきっとそうだったのかなと。私はこの寂しさをずっと言語化できていないんですけど。
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- シチュエーション的にもかなり特殊でしたしね。半年だけ未来にタイムスリップするという。でも里見さんに出会えたのは幸運ですね。
- 鴨梨
- はい、それで話がどう転ぶにしろ良かったんじゃないかなと思います。
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- SFではあるけれど、モラトリアムから一歩軽く足を踏み出す成長譚になっていたのがとても良かったです。
- 鴨梨
- ありがとうございます。SFがずっと分からなくて色々見ました。「サマータイムマシン・ブルース」も見ました!
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- リモコンがないとエアコンは動かないですしね。
- 鴨梨
- でも、めっちゃ勉強になりました。STBだけ見てSFを分かった気でいるという(笑)
質問 興梠陽乃さんから鴨梨さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた興梠さんから質問をいただいています。「なぜ演者も続けているんですか?」興梠さんとしては、他の団体に演者として出演するのは、誰かの城に入るようなものではないかと。
- 鴨梨
- 興梠さん!楽しいからじゃないですかね。結果、自分にないものが自分の中に浸透していくのが。ただ、結果的に自分の方に寄せていってしまうところもあるかもしれないです。そういう感覚はやっぱり日常にはないので楽しいです。あと人と話すのが本当に苦手なので、でも台詞があったら喋れるし、それが練習でもあるから。演者以外になかなかないですよねコミュニケーションと練習が一緒なのって。逆に自分が脚本を書いて演出をするのは、自分が書いた台詞がコミュニケーションになっているか不安なので、ソワソワしながら稽古しています。
これから

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- 今後、どんな演劇を作っていきたいですか?
- 鴨梨
- 基本ベースとして会話劇は大事にしていきたいと思っています。自分が今表現できる範囲。どうしても自分が経験したことじゃないと書けないので、これから年を重ねていくにつれて、例えば家族の話ができたり、母親目線の話ができるようになったり。そういうのがすごく楽しみですね。今回も初めて結婚の話が出てきて、私の周囲にも結婚する人が増えてきたし。
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- なるほど。
- 鴨梨
- 自分の経験に沿ったお芝居が作れればいいなと思っています。
木のスプーンと小皿

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- 今日はお話を伺えたお礼にプレゼントを持ってきました。
- 鴨梨
- なんだって?なんだかいい袋だ、期待しちゃう。
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- そんな大したものではないです。どうぞ。
- 鴨梨
- どう開けるのが正解だろう(開ける)え、可愛い!
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- 鴨のスプーンですね。
- 鴨梨
- あはは、鴨梨だからですね。