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点命「落下のUnknown」

藤村 弘二
__ 
今日はどうぞ、よろしくお願いいたします。点命の「落下のUnknown」ご出演、お疲れさまでした。120%全力の表現、見応えがありました。
藤村 
ありがとうございます。
__ 
同作品はネットでよく聞く「セックスしないと出られない部屋」という考案を扱った、大人向け演劇と思いきや・・・でしたね。あらすじとしては、謎の力を持つ天使たちによって部屋に閉じ込められた二人の男女三組。性交渉をしないと出られないというハプニングから始まるAV演劇だったのが、ちゃんと恋愛の話に変わっていく推移がとても良かったです。
藤村 
自分たちのペアのシーン(桃梅ペア。桃井想一郎・梅園椿 演:藤村・北枕すゞめ)は、テンポや勢いで作った部分が大きかったです。僕らのペアは関係性的に対立からスタートしたので、恋愛からの所謂「コネクト」に持っていくには急すぎないかという疑問が最初にありました。まず自分と役がかなりかけ離れていましたしあんな状況にまずならないですし性的な話をあそこまでオープンにすることも普段ないので。人前でああいう話をするときの気持ちや感情ってどんなものなんだろうと考えました。
__ 
そうですね。
藤村 
そもそもこの役は結構穏やかじゃないんですよね、ずっと大きな声で独り言してるし。自分を見失ってるというか視野が狭いというか。それでも他人と一緒に閉じ込められ、急に「自分がどうしたいか」を答えなきゃいけないという状況に直面する。
__ 
自分自身との差異をどう埋めるかという課題。
藤村 
自分たちで調整しつつ走り切るイメージでした。我々以外の他のペアにも意識はしていましたので、全体が対比として見えていたならありがたいです。
__ 
この作品の美点は関係性が細かく描かれて、性交渉から恋愛にテーマが変わっていくプロセスがちゃんと見えることだったと思います。下ネタは最初の5分くらいでそんなに気にならなくなりましたしね。
藤村 
観に来てくれた方からも「思ったほど下ネタじゃなかった」と言われることが多いです。「致さないと出られない部屋」という前提が俗っぽいだけで、当事者6人は真剣にやりとりしてるから、下ネタって言うと汚い話や下品な印象があるけど、そうじゃなかった。案外エロでもなかったですし。
__ 
下ネタをメインにすると、ギャグだからすぐ限界が来ますよね。
点命「落下のUnknown」

作・演出:相原美紀。公演期間:2025/4/26~27。会場:ライト商會。

桃梅ペアについて

藤村 弘二
__ 
恋愛プロセスを演じるうえでお考えになった事があればぜひ伺えればと思います。自分が盛り上がるだけじゃなくて、梅園さんにも自分に惚れてもらわないといけないという。もちろんその運命は戯曲が決めていますが、役者は何も考えなくてもいいという訳ではないと思いますが。
藤村 
気を配らざるを得ないというよりは、桃井想一郎という役を真っ直ぐやろうと思いました。さっきも言ったように初対面の二人なので、むしろフルオープンで遠慮もなく。どっちかが変に気を使ったら、相手に惚れるのが難しくなると思いましたので。この初対面の二人がこの短時間でどこで恋に落ちるのか、一応ペアで話し合ってはいました。自分としては行為への欲よりも好意が勝るタイミングは作りました。
__ 
なるほど。
藤村 
一方梅園椿が桃井想一郎に恋したかというと、桃井の不器用な面に対し無意識的に心が揺らいだんじゃないかと思います。タイミング的には多分こっちが先に惚れたんですが。椿のマイクパフォーマンスのシーンの後、「可愛い」と桃井が口に出してしまうんですがそれが大きかったかな。それまでのように下心や作為的な口説き文句じゃない、「可愛い」という反射的な独り言が。
__ 
エンジェル的には、そういうシチュエーションで何が発生するのか、しないのかを通して人間の徳と恋愛の関係性について観察したい、みたいな目的だったのかな。
藤村 
その相手のことを全く思わずに、強制的にすれば部屋の外には出れるかもしれないけれどもそういうことではなく、それぞれが関係性を繋げて出られる人の力、を見たかったのかなという気がしますね。
__ 
自分の思いだけが存在するのではなく相手の思いも存在するという。境界線は一つではなく二つであるみたいな。そういうことを実はエンジェルは気づきたかったのではないか。なんせエンジェルたちは自他境界線がやや曖昧になっているようだったし。
藤村 
両思いになるプロセスは同時じゃないですもんね。作品としてはみんな心の部分で繋がれましたが、できなくても不思議じゃないと思うので。
__ 
相原さんのこれを描いた思いであるとか、ちょっと興味ありますね。

怖さと切なさ

藤村 弘二
__ 
努力クラブ「そして、ここからはミューズの街(『オフリミット』の改めたやつ)」のお話も出来ればと思います。藤村さんの役どころで一番印象深かったのは焼ガニ売りでした。努力クラブの魅力を存分に体現されていましたね。
藤村 
ありがとうございます。最初の店長役はどっちかっていうと怒鳴るばかりの役だったので嫌だったお客さんもいるんじゃないかなと思ってました。カニは無害だし、お客さんが努力クラブの間に慣れてきたタイミングで舞台に出て行けましたし。美味しい役でしたね。欲しがらないように気をつけました。
__ 
努力クラブは長い間が特徴的ですね。でも目が離せない。焼きガニ売りが出て来たのはお芝居の中半でしたが、その時はかなり客席側も努力クラブの見方に慣れてきた頃合いだったかと思います。
藤村 
カニ売りは舞台上にずっと立ってるんですけど、他の人たちのシーンを見たり表情を動かしすぎないように気をつけました。ただあまりにも佐々木さん川上さん・三ヶ日さん鴨梨さんそれぞれのペアが気になり過ぎるのでちょっと反応したりはしました。
__ 
ご自身としては、どのシーンがお好きでしたか?
藤村 
一番最後ですかね。気に入っているというか、印象に残ったシーンですが。西さんの役は情けなさや惨めさみたいなとこがすごかったんです。ただ善性は有って基本的には良い人なんですよ。なんですけど、最後、内藤さんの妹を名乗る鴨梨さんが運転する車に乗せられ「一緒に行きましょうよ」と、川上さんも後部座席に乗ってきて「楽しいことしましょうよ」と誘惑したりする。西さんは抵抗しようとするけど、演目の最後では諦めてその誘惑に乗る。まるでその瞬間の西さんから良心が無くなっていくように見えてすごい好きでした。
__ 
そうそう、嫌なシーンで終わりましたね。
藤村 
川上も鴨梨も役に悩みながらやってたんですけど、傍から見てると鴨梨の訳分からなさも、川上の、なんですかね、怖さ?一番怖かったんですよね。一番訳のわからない状況で、絶対良くない場所に連れて行こうとしているのに、屈託なく笑ってて。最後、西さんに蛇みたいに絡みついてって演出がついてたんですけどそれがもう恐ろしくて。
__ 
あれも怖かったですね。
藤村 
個人的にもう一個好きだったのは、前半の終わりで西さん内藤さんがホテルで「明日死にましょうね」って言って電気を消したあと。元々は暗転中に内藤さんがハケるんですけど、確かそこでは靴を履いて出ていかないといけなくて。でも靴に蓄光を貼るのも微妙なので、薄明かりを点けることになったんです。薄明かりの中、西さんの横から内藤さんだけが起き上がって、ゆっくり靴を履いて捌けていかはるんですよね。これはそういうシーンなのか、場面転換なのか?と思いながらひたすらに切なかったですね。
__ 
内藤さん。印象深かったですね。
藤村 
努力クラブでは繊細な芝居が印象的で、声が小さくても全体に届けられる表現力をお持ちなんだなと。僕はまだ見ていないんですが、喜劇結社バキュン!ズでコメディをやってると聞いていたので・・・今月末に観に行く予定なんですが、楽しみです。佐々木さんがバキュン!ズを観て面白かったと言ってはったので余計に。
__ 
ミューズの街は、ご自身としてはどんな経験でしたか?
藤村 
改めて、演劇って自由だなって思いました。ほぼ素舞台で、真ん中に置いた平台とパイプ椅子約10脚だけでいろんな場所を表現したり、テーマパークの突拍子のなさとかも。
__ 
自由ですよね。
藤村 
僕の役は5つくらいありましたがどれも突拍子なかったですね。怒鳴る店長から、野球少年、元彼と名乗る男など、ほんとバラエティ豊かでしたね。
__ 
努力クラブは物語的にしんどいものが多い中で、見やすくする工夫や雰囲気を伝える工夫がきめ細かくされてるなと思います。
藤村 
以前、努力クラブの番外公演に出たときは佐々木さんが不在で、勝手にそのポジションだと思っていました。2020年のUrBANGUILDでやった「涼しい。」です。合田さんの演出3回目だったんですが、努力クラブの本公演は今回が初めてで。純粋に楽しませつつ、空気を壊さないように気をつけました。お客さんがどう見るかを最初に説明して定義づけるのが、意地悪くもあるけど見やすさにも繋がってる。最初に見やすくしておいて後から真に迫る構造が良いなと。お客さんからすれば、役者は生身に見えてもいいし、対岸の火事とかモニター越しのように笑ってもらってもいいな、と。
努力クラブ「そして、ここからはミューズの街(『オフリミット』の改めたやつ)」

脚本・演出:合田団地。公演期間:2025/1/24~26。会場:高槻城公園芸術文化劇場。

劇団ヨアガキ 神楽物語集・二「魚鱗之舞」

__ 
劇団ヨアガキの神楽物語集・二「魚鱗之舞」についても伺えればと思います。いろんなレイヤーの話が重なる作品でした。藤村さんはメインキャストでしたね。
藤村 
演劇は娯楽だと思うんですが、「魚鱗之舞」は社会運動の一端のような感覚で取り組みました。種族、性別、生まれた環境などいろんなレイヤーの人々が関わり合う物語で、純粋にその役をどう動かし、どう変わらせていくかに注力しました。作品としては社会問題の提起を大きく感じました。
__ 
政治の世界を選ぶ姿が良かったなと。
藤村 
それぞれが決断する描写が描かれていていましたからね。社会問題の訴えかけもあるけど、個人的には見に来てくれた方一人一人の背中を押せたらいいなと思いながらやってました。
__ 
お疲れさまでした。今年11月の第3週の公演、出演が決まったそうで、楽しみです。
藤村 
ありがとうございます。劇団ヨアガキの 神楽物語集は一本ずつでも楽しめるし、関連性を探してみても面白いので、今回も楽しみです。以前を観られた方もそうでない方も興味を持っていただければと。
劇団ヨアガキ神楽物語集・二 “魚鱗之舞”

脚本・演出|興梠 陽乃 公演期間:2024/10/25~27。会場:THEATRE E9 KYOTO。

楽な演技

藤村 弘二
__ 
短い質問です。どんな演技ができるようになりたいですか?
藤村 
楽な演技が出来るようになりたいですね。楽に演技をするじゃなく、楽な演技を。お芝居ってどうしても「やってやるぞ」っていうのが入っちゃうんですが、それは他人を見せる上で邪魔だなと思っています。
__ 
自分自身が邪魔だと?
藤村 
はい。「落下のUnknown」の役も力強い芝居でしたが、そうであるほどに自分が邪魔だと感じる。いっそ自分の役に成りきって全てを委ねてられれば楽なんですけど、役者といえど他人にはなれないので。僕は最初、他人に成りたいと思って演劇を始めたんですけど、やっていくうちに演じ手とは限りなく自分なんだと気づいたんです。それでも役の生きている瞬間を見せるために、自分が役の邪魔にならないよう自分を使いたいです。
__ 
「自分が邪魔」というのは、俳優の心のあり方に関わる考え方のように思われます。たとえば、作品を見せたい欲があったとして、それが演技の邪魔になるというようなことでしょうか。
藤村 
どう見せたいかという欲は置いといて、テンポや声の強弱、表情や方向はお客さんの見やすさのために稽古通りにやらないといけないですね。でも、動いた後どう見える・今どう見えてるかは演じる瞬間あまり気にしないようにしています。役として素直にその空間にいられれば成り立つと。
__ 
「今どう見えてるかはあまり気にしない」。
藤村 
厳密には気にしないようにしてる、ですかね。僕はそもそもそういったことばかりに意識を持っていかれがちなので。もっと言うと役の人間性に納得できないとき「ここでこうは喋らないのではないか」みたいな抵抗感が出てしまうことがあります。理解とは別のところに、そうした思いが生まれる。ただここ数年で、そこを理解しきる必要はないと思うようになりました。
__ 
理解しきる必要はない?それは、観客に対しての責任と相反しませんか。
藤村 
えーと、責任放棄や理解を投げ出すということでは無くて。役の感情線やプロセスが劇中にあるとして、僕が演じる役が僕と同じ感情線で動くわけじゃない。だから、その役が一個人として居る状況や発するセリフの理解は必要だけど、役者自身の価値観でその全てに納得しきる必要はないと思います。
__ 
責任の線引きですね。脚本や演出が提供する「資材」を俳優が演じるとして、役の人間性にどこまで立ち入るか、あいまいでもいいってことでしょうか。
藤村 
はい。成りきることイコール演じるでも無いと思うので。責任というなら、作品や現場で境界線は変わるけれど、演出が「このセリフをちゃんと伝えてほしい」「お客さんにこう思わせてほしい」と言えば、そこからは役者の責任。でも、それが届かなかったとき、どっちの責任かは明確じゃなくていいと思います。
__ 
なるほど。コンテンポラリーな作品だと、上演の意味や価値を演者側が完全に決めるのも限界がある。全てを理解したつもりで演じても、100%お客さんに伝わるわけじゃない。意図通り伝わるのが50%、お客さんの視点で違う解釈が50%、あるいは作品に入り込めてないときは50%しか伝わらないこともある。
藤村 
そうですね。
__ 
逆に、どっちの責任でもある・・・?あるいはその責任を追及する必要はない、と。ちなみにバキュン!ズはそこに一定の答えを出してるんじゃないかなと思います。
藤村 
ここでバキュン!ズが出てくるんだ(笑)。楽しみですね。

質問 鴨梨さんから藤村弘二さんへ

__ 
前回インタビューさせていただいた、鴨梨さんから質問です。「なぜ演劇を続けられているんですか?」。興梠さんからも似た質問で、「なんで演者を続けてるんですか?」と。
藤村 
以前5年ほど劇団に掛け持ち所属してたけど、今はフリーで、呼んでくれる人たちがいる環境に身を置けているからですかね。努力クラブの合田さんには所属してた頃から知って頂いていたので、その当時からの繋がりも大きいですね。また、演出が作品で表現したいことに、自分が肯定的なときも否定的なときも含めて、お客さんに届けられると楽しいというのもあります。
__ 
素晴らしい。ありがとうございます。

これから

__ 
今後、どんな感じで攻めていきますか?
藤村 
去年は馴染みの現場が多かったですが、活動の幅を広げていきたいですね。
__ 
とても楽しみです。ありがとうございました。

珈琲豆柄の風呂敷

藤村 弘二
__ 
今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントを持ってきました。
藤村 
ありがとうございます。開けてもいいですか?
__ 
どうぞ。
藤村 
(開ける)柔らかい生地ですね。よく見たらコーヒー豆がはっきり描かれてますね。
(インタビュー終了)