大塚さんの最近
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- 今日は劇団三毛猫座の俳優であり、大喜利プレイヤーでもある大塚啓さんにお話しを伺います。どうぞよろしくお願いいたします。大塚さんは最近、いかがお過ごしでしょうか?
- 大塚
- よろしくお願いします。11月28日から30日までの間に、劇団ヨアガキさんの「鱗打之跡」に出演させていただきますので、その稽古が主にあります。それから来年1月の頭には三毛猫座の「不思議の国のアリス」も控えています。あと、これは私の完全な勝手な活動なんですが、大喜利のイベントにめちゃくちゃ出ているので、合間合間にそれを詰め込んだら、空いてる日が全然なくなってしまいました。でも楽しくやらせてもらっています。
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- 演劇と大喜利以外では、いかがですか?
- 大塚
- 演劇と大喜利以外ですと、普段は映像の制作会社でサラリーマンをやってるので、主に仕事してますね。あと少し前に、大喜利で知り合った方に頼まれて、イベントのフライヤーデザインもさせていただきました。そちらの方面も経験がたくさんあるわけではないんですが、これから色々やっていきたいと思っています。
川へ
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- 先日ご出演されていた、劇団ヨアガキの「San-Sou」と「鱗打之跡」についてお話を伺えればと思っています。「San-Sou」、大変面白かったです。複数の役を演じておいででしたが、まず謎のおばあちゃん役があまりにも上手でびっくりし、そしてそれ以上にお話が非常に奥深くて大変見応えがありました。
- 大塚
- ありがとうございます。
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- 大塚さんは、谷内一恵さんと一緒に「妖怪」を演じられましたね。興梠さん演じる「間」(ハザマ)が、謎のおばあちゃんの渡した御酒を飲むことで落ちた川の中で彼女たちと出会い、対話が始まるというお話でした。妖怪を名乗る彼女たちをひも解くと、実はそれぞれの心的外傷が互い違いに結び付いた存在だった。最終的には彼らは救済されたのかなというところが個人的にありまして・・・成仏、という言葉が頭に浮かんでいます。
- 大塚
- 成仏というより、生き物として死んだというのが私の解釈です。霊魂的なことは考えておらず、あの瞬間に2人の中で通じ合い、そのまま死んでいったと解釈しています。
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- ありがとうございます。個人的にはあそこで一旦ピリオドが打たれたのが、女性のみが知ることになる苦難を受けた彼女らにとっては一つの休息になったのかなというふうに感じました。
- 大塚
- そうですね。社会や身近な人間に痛めつけられ、流浪し、あのような場にたどり着いた。その時点でもう、どうしようもない状況だった。
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- そこに迷い込んだ間(ハザマ)の存在が、彼女たちに変化を与えました。いい方向か悪い方向かは誰にも分かりませんが・・・出演されて、どんな気分になりましたか?
- 大塚
- 自分は女性として生きてきて、制限や被害を比較的受けてきませんでした。これは周りの環境に恵まれた、単なる幸運だと思います。「女だからできなかったこと」や「女だからやらされたこと」はほぼありませんでした。そのため、あの話に100%移入できる立場ではないのですが、そうした苦しみが世界に紛れもなく存在するのは事実なので、もっと多くの人に想像してほしいとは思います。
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- 想像力。
- 大塚
- 想像、というのもちょっと違うな。思いを馳せるというか。事実を事実として受け止めて、そこに思いを馳せるというか。
劇団ヨアガキ「San-Sou」
作・演 興梠陽乃
【日程】2025/9/12~14
【出演】大塚啓(劇団三毛猫座) 興梠陽乃(劇団ヨアガキ) 谷内一恵(人間座)
【会場】Social Kitchen
【あらすじ】誰にも迷惑のかからない自死を考えていた間はスマホ画面に、台風接近のニュースと氾濫する川、死者多数の文字を見る。山中の濁流に赴いた間が飛び込む寸前出会ったのは仮面を付け、「妖怪」を名乗る二人だった。人間をやめたい人間と、人間ではないナニモノかが、一夜を過ごす物語。
【スタッフ】宣伝美術:南沢想 演出助手:花岡咲紀 舞台美術協力:檜皮拓也 チラシ写真撮影:泉竜馬
人間性
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- 11月は劇団ヨアガキの「鱗打之跡」ですね。Xで拝見したビジュアル撮影の様子、楽しそうでした。
- 大塚
- 面白かったです。全員でポーズをキメキメにするのはあまり経験がなかったので。使われなかった写真も多いので、今後出てきたら嬉しいです。
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- 楽しみです。どんな作品になりそうでしょうか?
- 大塚
- 普段、自分が観客として観に行く方々との共演なのでシンプルに嬉しいです。稽古では演出の興梠さんが意見を聞いてくれて、すごくフラットに、みんなで作っている印象が強いです。完成時には皆が腹落ちして、出ている人たちと融合したようなものになるのではと思っています。毎回とても楽しいですね。
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- なるほど。
- 大塚
- 土台を固めつつ、個人が見えている何かを貪欲に拾っていく感じです。いま立ち稽古をつけ始めていますがそのスピードが速くて。所属の三毛猫座は最初にめちゃくちゃ読むんです。声の重なりや遊びを先に作るため、ヨアガキさんのように台本が仕上がったらすぐ立ちをつけるのは新鮮です。前回の「San-Sou」でもそうでしたが、そういう進め方の法がいつもよりセリフを早く覚えられたので、私、動いた方が覚えられるんだなというのは発見でした。
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- チラシのテキストを拝見するに、生活と死、信仰、人の倫理観の根幹を問うような話なのでしょうか。
- 大塚
- そうですね、人間の本能を疑うというか。印象としては性悪説的な話です。「多数派に少数派は合わせるべき」とか「発展が第一」とか。生き物の本能やエントロピーの法則でそれが自然に見えても、それに逆らわないで人間と言えるのか、逆らうことが人間性ではないのか、と理解しています。ただ、これから皆で話し合うので、今の理解が正しいかはまだ分かりません。
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- 大塚さんご自身はどう思われますか?
- 大塚
- 私も放っておいたら人間は悪くなっていくと思います。譲り合ったり他者の権利を慮るのは生物としては不自然ですが、人権という概念ができた以上、人権とエントロピーは食い合わせが悪い。
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- 愚行権もありますしね。
- 大塚
- 放っておくと全部が同じドロドロの均一なものになり、一番強いものに吸収される仕組みだと思いますし、そうなっている。社会が余裕をなくすと、エントロピーに抗う力が弱まるのでしょう。今は均一な混沌に向かっているのかと。だから、それに抗う話なのだろうと。「自分で考えて踏ん張らないと、この世界に生きているのは自分たちなんだから」という話なのかなと思っています。
劇団ヨアガキ「鱗打之跡」
作・演 興梠陽乃
【日程】2025/11/28~30
【出演】大塚啓(劇団三毛猫座)、興梠陽乃(劇団ヨアガキ)、夏目れみ、にさわまほ(まど劇)、藤村弘二、山中麻里絵
【会場】THEATRE E9 KYOTO
【あらすじ】人魚信仰をテーマに信仰の誕生、成熟、消滅を描く、劇団ヨアガキ『神楽物語集』第3弾にして、最終章。東京で記者をする神無は、ある新興宗教の取材を押し付けられる。鯨を信奉するその宗教団体は莫大な謝礼金を払い、死を目前にした教祖の取材を各メディアに依頼していた。嫌々ながら取材に向かった神無は、「おばあ」と呼ばれる教祖と出会う。時代遅れのレコーダーを押し、座る神無におばあは、自らの信仰そのものであるという物語を語り始める。「昔むかし、神と動物と人の境がなかったころ…」それは少女だったおばあが、かつて「人魚」と出会い聞いた物語、「鯨と人の合いの子」をめぐる物語だった。
【スタッフ】舞台監督:森本柾史(青コン企画(仮)) 制作:河野寿、花岡咲紀、八木志菜 制作協力:永澤萌絵(ソノノチ) 宣伝美術・ビジュアル撮影:山田世紀末(袋とじ企画) 照明:門志亜紀 (CLOUD9) 音響: 小山琴泉(浮世←奈落) 舞台美術:檜皮拓也 舞台美術製作補佐:増田奈津穂 衣装製作:興梠陽乃(劇団ヨアガキ) 演出助手:花岡咲紀
ありえない世界を
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- 劇団三毛猫座は来年1月に「不思議の国のアリス」の上演をご予定されておられますね。「アリス」は何度も扱われた作品ではありますが、奇妙さは永遠に続く・・・そんなことを思いました。
- 大塚
- 三毛猫座が以前から興味を持っていたモチーフで、今回ようやく上演になります。三毛猫座は言葉の響きや音遊び、言葉と音の間を探ることを多くやってきているので、今回は言葉遊びや次々と現れては消える展開がモチーフに同調したのでしょう。
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- 夢のように色々出ては消えていきますもんね。
- 大塚
- それを役者数人とセットでどう表現するかに、ギミック的な期待があるのかもしれません。美術・衣装でもアーティストとコラボしており、ありえない世界をどう作り上げるか、という好奇心があるのではと思います。
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- どれだけ三毛猫座さんのパフォーマンスを増幅させるか、ですね。
- 大塚
- そうですね。深い理由は主宰にインタビューしてもらって(笑)。
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- わかりました。大塚さんご自身は、アリスという主題に何か思われますか?
- 大塚
- 題材としては、教訓や明確なストーリーがない分作り手が遊べる題材なんだろうなと思います。クリエイター魂をくすぐるというか。現状、アリス役は固定で、周りの登場人物は6人で全てをやる予定です。
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- 不思議の国のアリスも、「San-Sou」も、穴に落ちますよね。
- 大塚
- ああ、「San-Sou」は川ですね、川に落ちます。
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- 失礼いたしました、そうでしたね。本人が望まなくても非日常のスポットに落ちる、という点では同じかも。そこで意図せず魂の旅が始まる。ちなみに、大塚さんはご旅行はお好きですか?例えば、2か月どこにでも滞在出来るとしたら。
劇団三毛猫座 第八回本公演「不思議の国のアリス」
【出演】大塚啓(劇団三毛猫座) 宮本結妃(劇団三毛猫座) 小野下未来 鈴木翠 藤原美保(ソノノチ) やまちゅう<アンダースタディ>海椰(劇団三毛猫座)
【演出】neco(劇団三毛猫座)
【脚本】永久(劇団三毛猫座)
【舞台美術】副産物産店
【舞台監督】長峯巧弥(合同会社minestage)
【照明】渡辺佳奈、木内ひとみ
【音響】林実菜
【衣装】山下彩
【衣装補佐】伊達七実
【ヘアメイク】橋爪佑莉
【広報デザイン】後藤多美
【制作】波多野円香、渡邉裕史(ソノノチ)、海椰(劇団三毛猫座)、綾乃(劇団三毛猫座)
【主催】劇団三毛猫座
【共催】京都芸術センター(公益財団法人京都市芸術文化協会)
【協力】ノートルダム女学院中学高等学校、合同会社nochi
知らない土地へ
- 大塚
- 旅行は、適当に行くのが好きです。一人で行くことが多く、調べずパッと行って、予定を決めずにブラブラするのが好きですね。
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- 知らない道を行く感じですか。
- 大塚
- そうですね。散歩が下手で、プレッシャーがないと歩けないんです。旅行で知らない土地に行って「どこへ行けばいいんだ」という状態にしないと。普段から家の周りをブラブラしたりもせず、ご飯も行ったことある店ばかり行くので。
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- 自分が知っている環境は、新しい刺激がない。逆に言えばベストな環境では?
- 大塚
- 散歩は慣れてないだけかも。もし2ヶ月どこでも行けるなら、結局知っている場所に行ってしまいそう。だから、「ここへ行け!」と決められた方が想像できない体験ができるのかなと思います。
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- 違う場所では、自分の感覚が新しくなる。むしろ疑う状態になる。「頭がおかしくなった」ような状態にどう慣れるか、ですね。劇場で客席の明かりが落ちた時、視覚や聴覚が増幅され気分が落ち着くのと同じように。その増幅されている状態で、幻想が湧くのは不思議ですよね。なんで夢ってあるんだろう、と思います。あ、寝ているときに見るほうの。
- 大塚
- そうですよね。明晰夢を見れる人はあれですけど、基本的に夢って操作できないじゃないですか。それで言ったら普通の演劇も同じか。どちらにも干渉できない。
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- そうですね。
- 大塚
- だからストーリーらしいストーリーがなく、めくるめく展開する今回の作品は、演劇の「演劇性」だけを取り出したものになるのかもしれません。
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- 素晴らしい。三毛猫座さんは、声のハーモニーで幻想を奏でる感じでしょうか。今年の5月の展示、行きたかったんです。
- 大塚
- いえいえ。そうですね、ドラマ的なカタルシスより表現側に興味が強い劇団だと思います。5月の公演も基本は展覧会で、言葉を持ち寄って詩を作る、シュールレアリスム的な作詩法から着想して詩や作品を作り、更にそれを元にした演劇パフォーマンスを上演したり。声とビジュアルで何ができるかに重きを置いていると思います。演技中にドラマチックにしすぎると怒られることが多いです。「それやりすぎ」って。
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- それは重要ですね。モノローグの時、瞬きの回数はコントロールすべきだと劇団で言われました。
- 大塚
- そうですね。めっちゃ瞬きする人っていますよね。
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- 観客に見られているシーンこそ自然体でいなければならない、という矛盾もあります。生理的な変化もお客さんには伝わるので。
- 大塚
- 未だに立ち方や手の置き場に悩みます。「手どうしよう」って。
大喜利の迷路
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- 大喜利プレイヤーとしての大塚さんにお話も伺いたいです。
- 大塚
- いえ、私まだ大喜利やってるだけで、大会で勝ったとかプレイヤーとしての実績はないです。ただやっているだけです。
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- いえ、とんでもないです。大塚さんが出てらっしゃったところをYouTubeで探して見ました。
- 大塚
- あ、マジですか。お恥ずかしい。ありがとうございます。
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- お題からどのようにひらめきを得ますか?具体的に言えば、私これ一番好きだったんですけど、お題「ラーメン屋と病院が融合したらクレームが殺到。どんな?」で「ワクチンをチャッチャされた」。
- 大塚
- ああ、あれ、ありがとうございます。あれ、気に入ってます、割と。
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- どうやってひらめくんだろうな、と思って。私、絶対こんなことできないです。
- 大塚
- こういうお題は「二要素お題」と呼ばれます。病院とラーメンの二要素。例えば、このラーメン屋みたいな病院や、学校みたいなコンビニとか。
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- 要素、ですね。
- 大塚
- はい、要素です。そういう時は、ラーメン屋の要素(店長が腕組み、食券機、ニンニク多めなど)と病院の要素(注射、手術、待合室など)があって、変な要素を持ってきたりするとみんなが思いつかない面白い答えになる感じです。あの時は、病院でされる処置にラーメン屋でされることを混ぜてこられたら嫌だな、というので。注射と…ラーメン屋でしてもらうことってそんなにないなと思って、背脂チャッチャかな、と思いました。
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- なるほど。かけ離れすぎると分からない。親戚くらいならギリギリ。
- 大塚
- 離れすぎる要素だと面白くするのが難しくなるので、私は結構ベタなのしか出せないです。
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- ありがとうございます。他の回答者やお客さんの反応が発想やスタイルに影響したことはありますか?
- 大塚
- 一緒にやってる人たちが面白いので、「あ、こんな考え方があるんだ」と参考にはしてるのかな。まだそこまで…。割と気にしてはいないかも。スタイルっていうほどのものもないですが、自分が言ってて気持ちいいことを言ってる感じです。言ってて気持ちよくない時は、あんまウケない気がしますね。
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- ウケても滑っても、そんなにお客さんの反応は気にしない?
- 大塚
- 「この感じ、あんま受けないんだ。じゃあ、ここ触るのもうやめとこう」みたいな時はありますけど。見ていただいたのは大会で観客がいたんですよ。普段は勝ち負けもない状態でやってるので、特殊な状況でした。
- __
- なるほど。
- 大塚
- 上級者の方は、お客さんの感じを見て「これで行こう」と考えるんでしょうけど、私まだそこまでできないので、本当に思いつけたことを言ってるだけです。
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- お客さんにとっては、大喜利はマジで不思議の国のアリスですよね。脈絡がないのに面白い。連想ゲームというか。
- 大塚
- あ、そうですね、はい。本当に連想ゲームです。
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- 毎回新鮮に驚かされる。上手い人のところだと常に刺激が来るから、疲れてしまいそう。
- 大塚
- あ、疲れますね。大きな大会とかを観に行くと、予選で負けても最後3時間ぐらい大喜利を見てる時間があるんですが、めっちゃ面白いんですよ。上位に上がる人って全員面白いから。でも、めっちゃ疲れます。大喜利で笑う時って、回答から連想した情景も思い浮かべて笑ってるから、頭も使うし。めちゃくちゃ疲れます。見てるとヘロヘロになります。
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- そもそも、大喜利に出るようになったきっかけは?
- 大塚
- 子供の頃からお笑い好きでそこからですね。ベタですが学生時代ラーメンズが好きで、小林さんがバカリズムさんと一緒に出してた大喜利本を読んで「大喜利っていうものがあるのか」と。ちょうどその頃「ケータイ大喜利」もやっていたり、好きな芸人さんが「ダイナマイト関西」に出ていたり、「IPPONグランプリ」も始まって。すごく興味は持ちましたし憧れました。たまーに番組やインターネットで投稿もしてましたが全然読まれなくて、続かなかったですね。それから十数年経って、社会人になってからYouTubeで「大喜る人たち」を見て、木曜屋さんという方を知ったのですが、調べたらこの方が毎週大阪で大喜利イベントを開いてくれていて。勇気を出して行ってみたら、めちゃくちゃ楽しかったんです。それが去年の8月頃で、ちょうど1年ぐらいやっています。
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- 生大喜利は、絵を描いたりとか自由度が高いのかな。
- 大塚
- ああ、絵回答ですが、伝わればいいです。図みたいな感じで。結構メモ書きみたいにしか描きません。
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- 素晴らしい。大喜利をやって、ご自身が変わったことはありますか?
- 大塚
- 大喜利用の名義を作らずに、役者と同じ「大塚啓」として大喜利をやってて。人前に出る時用の名前って感じで、それで知ってくれる人が増えて公演も観に来てくれたらいいな、みたいなスケベ心的なのもあったんですが。自分は元来、めちゃくちゃふざけた人間で。役者としては、劇団のイメージもあるのでふざけすぎないようにしてたんですが、大喜利というふざけることを始めてしまったので、役者の大塚啓と元々のふざけた人間が一緒になってきちゃったというか。ふざけた人間に、役者として表に出る感覚が乗っかったせいで、よりやかましい人間になった気がします。
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- 融合したと。
- 大塚
- はい。自由になったと言えばなったのか...
質問 桑折現さんから大塚啓さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、桑折現さんから質問です。「公演の初演、例えば金土日の金曜19時などの1ステージ目、幕から出てきて待機している時を思い浮かべてください。開演の合図の5秒前、何が見えていますか?
- 大塚
- 袖にいるんですよね?なんだろう。多分目線はちょっと上の方を見てますね。多分その状態で袖にいて上を見たら、組んであるトラスとか照明が見える。何も見てないかな。しいて言えば、その日にやっているゲネプロで一番最初に出て行って立って、パッと客席の方を見る、その時の景色を見てるかも。
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- ああ。
- 大塚
- ゲネプロで見た舞台からの景色。さっきこうだった、というのが頭にあるかも。舞台上は明るくて、客席は暗くなっている、こっちが明るくてこっちが暗い、その感じを見てるかも。
散歩下手
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- 大塚さんは散歩が下手なんですね。何故なんでしょう。
- 大塚
- 人に見られてないと何もできないからだと思います。めっちゃ目立ちたがり屋で、見られてたら色々できる。とにかく見られたい。見られてたらできるけど、見られてないところで何かすることができなくて。だから散歩なんかもできないのかな、と思います。
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- それはどこから来てるんですかね。承認欲求?
- 大塚
- 承認欲求、ですかね。ただ、一人旅はするし一人で飯も食うので、じゃあおかしいか。
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- 承認欲求の裏返しで、見られるのが疲れるから一人旅をするのかな。
- 大塚
- それはあまりないです。ある友達は「一人で美味しいもの食べても意味が分からない」と言うんです。「美味しいねって言い合う人がいないと食べる意味がない」と。私は全く理解できなくて。てことは違うのかな。すいません、今のなしで。矛盾しました。
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- 最後の質問です。いつか、どんな演技ができるようになりたいですか?
- 大塚
- 楽しいものと、かっこいいものが好きです。洒落た演技がしたいですね。「うわ、今の洒落てるね」って思うような。顔を上げて本を閉じ、すっと立ち上がり、ふっと振り返って舞台の方を見る、そういう所作とか。見ててうれしくなる気持ちいい演技。軽薄な願望です。最近の演劇ではあまり求められないかもしれませんが、それをやって様になるようになりたいです。
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- いつか、そういう大塚さんを存分に見たいです。
デビル・マスク
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。どうぞ。
- 大塚
- え?何?ああ、すご。なんで?
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- ハロウィンなんで。
- 大塚
- ああ、そういうこと?おおいいっすね。着けてみていいですか?
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- はい、もちろんです。
- 大塚
- あ、柔らかい。似合ってます?
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- 似合ってます。
- 大塚
- 不思議といい気分。角あるっていいな。