暑い

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- 今日はどうぞよろしくお願いいたします。きょん子。さんは最近はどんな感じですか?
- きょん
- 最近は、結構…いや、かなり暑いなと思いながら日々生きているぐらいですかね。あとは直近で言うと、昔写真撮影をしていただいた方とまた写真撮りに行ったりとかして。あとは、11月の公演の台本を書いてたりしています。
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- ありがとうございます。11月の浮世のはぐるまプロジェクトですね。そのお話もぜひのちほど。
- きょん
- ありがとうございます。それと、この間の「落下のUnknown」で共演した北枕すずめさんのお膝元で8月末にお世話になるので、その顔合わせがあったりとか。友達の幅がだんだん広がっていくのを久しぶりに感じてますね。
- ___
- 演劇の幅が広がっていくんですね。
- きょん
- はい。芝居に関わっていく中で会う人たちの幅が徐々に広がっていって、層が厚くなってて、楽しいなと。
点命「落下のUnknown」
作・演出:相原美紀。公演期間:2025/4/26~27。会場:ライト商會。
点命「落下のUnknown」の想い出

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- 点命の「落下のUnknown」についてお話を伺いたいです。とても面白かったですね。エロい話なのかと思いきや。歌もダンスもSFもありましたし。
- きょん
- そうなんですよね。だから宣伝の時も、ご来場いただいた時に「下ネタだけじゃないじゃん」って素直に楽しんでいただけるようにちょっと意識してました。
- ___
- ご自身としてはどんな経験でしたか?
- きょん
- 本当に自分のやりたいことを全部やらせてもらったな、という感じで、すごく光栄でした。歌もダンスもやらせてもらって。あと、「1対1の掛け合いをちゃんとやってみたい」と思ってたところに、フレッシュな子とめちゃくちゃ会話劇をやることになって、ビシビシ鍛えたらビシビシ返ってきて、うわぁ楽しい!みたいな。ポテンシャルの塊みたいな子と一緒にできた事が幸せでしたね。それと最近、お笑いを見るのが好きで、自分のボディ的な強みを生かせる笑いの間を考えるのも楽しかったです。いろんな面で自分のやりたいことを全部やれたなぁって。楽しかったです。
- ___
- あえて反省点があるとすれば。
- きょん
- 反省点・・・、ちょうどこの前振り返ったんですけど、全部忘れちゃいました(笑)。とはいえ、「もっと面白くできたかも」「もっとディテール詰められたな」とか毎回思いますし、体力落ちてきたなとか。お客様に満足していただけた様で嬉しかったけど、もっと工夫できたなっていう細かい反省はあります。でも、全体的にはすごく楽しかったし、いい芝居ができたと思います。
- ___
- 良かったですね。
- きょん
- 全体を通して北枕さんや藤村さんが本当に上手いんですよ。泉さんと美南さんの掛け合いもすごかったし、イワムラさんも毎度変化球投げてきてめっちゃ面白いですし。ただ、皆さんのすごさに甘えてしまった部分が否めなくもあるので、もっと何かできたんじゃないかって感じますね。でもほんとみんな好き放題やってて、楽しい芝居でした。みんなが好き放題やってるのに、主宰・脚本・演出の相原さんも見守ってくださって。ありがたいことですよね。私、「呼んでいただいたからには演技で返すぞ」って気持ちで基本頑張っているのですが、その恩に報えていたらいいなと思っています。
鶴子とあおくん

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- きょん子。さんが演じた女子大生の鶴子。セクシーな噂を持つ彼女はSEXしないと出られない部屋に閉じ込められ、同じく閉じ込められた後輩の男の子に迫っても上手くいかないという役どころでしたね。
- きょん
- そうですね。鶴子は可愛い役なんですよ。こんな部屋からさっさと出してあげるためにも頑張るぞって気持ちもあるし、年上として、セクシーとして頑張るぞって言うか。それに自分の見た目だけで好かれるのって、なんだかなぁって気持ち私も分かるんです。そこにちょっといいなって思っていた子が急に「しんどそうじゃないですか」って弱いところ突いて来たら、キュンとしません?「あ、好きーーっ!」って。そういう展開って、普通にありますよね、漫画とかでも。だからこそ、そのキュンキュンラブコメを可愛く、面白く、でもリアルなトーンも使いつつ親近感も出せたらな、「わかる!!」って思ってもらえたらな・・・とか。めっちゃ楽しかったです。
- ___
- バランス感覚が必要な作業だと思うんですが、それをきちんと舞台でやりきると、鶴子の心の動きにすごく惹かれるし、感動すると思うんです。そのバランスって、やっぱり難しいですよね。
- きょん
- めっちゃ難しかったです。いくら狭い会場だからとはいえ、ここ(鶴子とあおくん)の間だけで完結しちゃダメだし。
- ___
- 例えば二人だけの会話で極端な話、背中を向けて顔が見えない状態でも表現できなくはないかもしれないけど、多分伝わらないですよね。観客は俳優の細かい部分まで見てるって仮定してやってるけど、二人だけで完結してたら、やっぱり分からない。ちゃんと文脈の中で、言葉としてお客さんの意識に浮かび上がるくらいの強さで伝わらないと難しい、そういう戯曲だったのかなって思います。
- きょん
- 元々戯曲のバランスがいいから、お客さん側に寄せるところと、内面の演技みたいなところを作ろうと思った時、作りやすかったんですよね。ただその上で私は「お客さんに伝わらないと意味がない」と思ってるので、分かりやすさを大事に頑張りました。
- ___
- そうですよね。
- きょん
- 今回一番難しかったのは、感情の揺れを見せる芝居からの歌。これ、めっちゃ難しい!切り替えもきれいにいかないといけないし。それと向き合うのが面白かったです。
- ___
- 今まで感情で泣いてた人が、突然マイクが降ってきて歌い出すって、難しいですよね。
- きょん
- それができる俳優しか揃ってないのも、すごいなって思いました。怖いですよね。よく集めてきたなって。
- ___
- しかも、初舞台の人も何人もいましたしね。最終的に、全体的に手応えはありましたか?
- きょん
- ありがたいことにありました。手応えを感じすぎて怖いくらいで。「落ち着け!」って。毎回クールダウンが必要なくらい楽しくて、手ごたえがありましたね。
- ___
- 素晴らしいですね。ありがとうございます。
- きょん
- 藤村さんたち桃椿チームはテーマ性が強くて泥臭さがあって、穂マルチームは純文学系。私たちのチームはエンタメ寄りで、分かりやすくしようっていうテーマもあったと思います。・・・なんか、キャラとして語れることが少ないですね。あ、今思ったんですけど。私ってどの役でも「人生で考えた時にあり得たひとつかもしれない」って思って、自分を乗せて演じるっていう役作りをするんですけれども。今回はそれ踏まえつつどのギミックでやろうかなってすごく考えてました。だからかな。自分の中のありえた人生の方向性に、ギミック付与して作っていくから、キャラ作りを主にやってたわけじゃないかっらっていうか?
- ___
- なるほど。その役に、自分の引き出しをあげる、みたいな感じですか?
- きょん
- そうですね。共通点を探して、「私はこの考え方で生きてきたけど、あなたはこうだったよね」みたいな。最近、のモットーが、板の上で舞台の上の人間として生きたい、なんですけど。掛け合いをどこまで楽しくできるかも、そこだと思うんですね。引き出しやギミックを使いつつ、板の上で生きる。それで、「鶴子を見て泣いた」とか「鶴子可愛い」って言ってもらえて、きょん子。ではなくて、鶴子で覚えて帰ってもらえたから、それはすごく嬉しいなって。
滑り台
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- 最近お笑いをよくご覧になっているとおっしゃっていましたが、滑るのがすごく上手な芸人がいるんですよ。今日はその話をぜひしたくて。
- きょん
- 誰だろう?「有吉の壁」とかめちゃくちゃ好きなんですけど。パンサーの尾形さんですか?
- ___
- カカロニ栗谷です。
- きょん
- (笑)
- ___
- 通じてよかったです。
- きょん
- NOBROCKTVによく出てますよね。
- ___
- そうそう。カリスマ3の動画ばっかり見てます。
- きょん
- Denさんもいるのに。
- ___
- リンダカラーインフィニティもぱーてぃーちゃんも好きなんですけど、最近急に栗谷が気になり始めちゃって。
- きょん
- 栗谷、この間ちょうど童貞卒業したんですよ。卒業報告動画のぐんぴぃの顔、ぜひ見てください。めっちゃ面白いので。
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- 帰ったら見ます。栗谷さん本人も自分のこと情けない男だと思ってブランディングしてると思うんですけど、そのうえで全然躊躇せず滑れるというか、「滑り」を自分の武器にできるのが、すごい勇気だなと。自分がどう見られてるか自分でもわかってて、お客さんもそれを見てるっていう確信があるから、自分の引き出しを革新的に使う。もちろん自分やお客さんだけじゃなくて、台本があって役があって、相手もいて、そういう総合的なバランスの中で成り立ってるわけですけどそういう中で見せ場やバランスを探っていけるっていうのが、最近すごく気になってます。
- きょん
- なるほどですね。自分がどう見られてるか・・・。私も分かってるつもりだし、分かりたいとも思ってるんです。この間の「落下~」が一番分かりやすかったですけど、私は美人だし身長もそこそこあってグラマラスだし、最近はそういう自分の体型や顔も、自分自身で記号的に捉えられてるなって感じてます。この顔、この体型の人間がこういう見せ方をしたら面白いだろうなとか、ここでぶっ飛んだことをしたらみんな笑ってくれるだろうなって。舞台の上で生きるっていうのは、キャラとして覚えてもらうのも大事だけど、記号的に見てもらって、その上で振り切れるっていうのも確かにあるなって思います。
自分を使う

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- 11月の「浮世のはぐるまプロジェクト」、すごく興味があります。
- きょん
- ありがとうございます。「浮世のはぐるまプロジェクト」は武士岡大吉さんと錦さんと一緒にやるんですけど、きっかけはもともと武士岡さんが「ショーケース企画をやりたい」とずっと言ってたんです。あの二人や今回のメンバーとの出会いはmadaの「ひとめあなたに」に出演した時で。「ショーケースやりたい」「学生演劇祭みたいなことを気軽にやりたい」「無料カンパ制でやりたい」って。学生時代のテンションで「これやろうぜ」って集まって、本を書いて持ち寄ってやろうぜってな感じで始動しました。
- ___
- 気軽に本気、ですね。
- きょん
- どうしても仕事はしないといけないじゃないですか。バイトしながら演劇して、演劇に人生の重きを置いてる方の方が多いと思うんですけど、私自身同じようにはできない。人生とメンタルのバランスが崩れるなと思ってて。安定した生活基盤を持った上で演劇に関わらないと視野が狭くなっちゃうし、人間関係もこじれるし、自分の作品も広い視野が消えて突っ走っちゃうし、役者としての自分も崩れるし。バランス取れないなって。
- きょん
- 学生時代のテンションで、劇団未踏座の文化祭公演みたいに「これやろうや」って感じで。一歩踏み出しやすいオムニバス形式で。まずはどんなやり方でも0から1を始めないと何もできないよねって。そういうノリで始まったのが「浮世のはぐるま」です。
- ___
- 社会人としてのバランスも崩さず、作品作りも両立させるってことですね。「社会の歯車、気軽に本気」って言葉、面白いです。
- きょん
- 本当にそうなんです。気軽に本気。見せるものは絶対本気でやりたいけど、テンションは短期集中と。まあ、長い時間かけても本気じゃなきゃ納得いかないですしね、結局。あと期間と回数が単に多いだけだと収入が減るリスクもあるじゃないですか。私はそのリスクを抱えながら芝居作るのキツイですね。芝居に八つ当たりしてしまうかも。
- ___
- なるほど。
- きょん
- だから、気軽に本気で楽しく、でも見せ物として面白く。相反するけど両立させたいんです。
- ___
- 長く続けられそうですか?
- きょん
- うーん、分かんないですね。やってみないと。まずは細く長くが全員の目標です。
- ___
- それが持続可能な発展、ですね。
- きょん
- SDGsです。それが目標です。今回の企画のルールは15分とか、長くても30分芝居とか、まずはそんな感じで。劇作家・演出チームと役者陣営を集めて、役者から「この人とこの人を使いたい」「俺はこの人とこの人を使いたい」みたいに、人によっては2作品くらい出る形で組んで。文化祭的なテンションで楽しくやろうぜ~。ってな感じです。
- ___
- そうじゃないと、なかなか演劇続けられないですよね。
- きょん
- そうですね。それに続ければ続けるほど、ちゃんと企画しないといけないんだろうなって。劇団として続けていく責任とか、本当に大変だなって思います。
- ___
- そもそも続けるだけでも大変なのに、前回公演を上回らないと生き残れないし。
- きょん
- そうなんですよ。私たちの世代って、ちょい上にすごい人たちがいっぱいいるから、それもひーってなる人はなると思いますよ。満足して帰っていただくことの難しさ、お金を払っていただくことへの責任、期待に応えないといけないというプレッシャー、様々な難しさと向き合い続けないといけないですもんね。そうなると、0から1を生み出すプレッシャーが重くなるなぁとか。なるべく細く長くいきたいですけど。
- ___
- 公務員をしながら演劇を続ける人もいますしね。
- きょん
- そういう方向性がいいと思います。細く長くの方が結局やりたいこともソリッドになる気もしますし。
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- 大丈夫です。演劇はなぜか死なないので。結局TikTokとかでショートストーリーやショートドラマが残ってるし、人間は「演じる」ことから目が離せないんだと思います。
浮世のはぐるまProject
2025年11月22日(土)18時23日(日)13時/17時24日(祝)13時《会場》Social Kitchen 2FSpace〒602-0898 京都府京都市上京区相国寺門前町699《来場料金》無料カンパ制《出演》石井きょん子。申谷翔吾(とんだたぬき・劇的謝罪集団ヒタイピッタンコ)武士岡大吉MINE(中野劇団・劇団なべあらし)益田 萠谷内一恵(人間座)山本知志(劇団1mg)
質問 田宮ヨシノリさんからきょん子。さんへ
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- 前回インタビューさせていただいた、よるべの田宮ヨシノリさんから質問をいただいてきています。「学生演劇での経験は生きてますか?」それと「コロナで活動できなかった不遇の世代としてどう思いますか?」ということです。
- きょん
- 学生時代の経験が生きてるかどうかで言えば、確実に生きてますね。コロナの不遇感を感じたかどうかで言えば、まあ、感じました。売れて何者かになってやるぞ!って思ってた自分からすると特に。もともと「これで食っていこう」と思ってました(笑)。そんな時代もありましたねぇ。芝居で、表現で、飯食うぞって本気で考えてました。
- ___
- コロナの時代…
- きょん
- いろいろ辛かったなとは思いますけど、パキッと折れたのは確かにコロナだったかもしれないです。ちょうど若さで突っ走れる22~24歳くらいの時期を私たちの世代は全部コロナに持っていかれましたから。「東京に出よう」っていう気持ちも当時はあったし、東京の劇団のワークショップに通ったりしてました。でも、地元を選んで、この地域を盛り上げようとする人が多くいる今。地方創生ってわけじゃないですけど、まあそういう意味では良かったのかもしれないです。
- ___
- 東京に行くか行かないかは、京都の演劇人の間でよく話題になりますよね。実際東京に行って成功した人も少しいますし。
- きょん
- 東京は楽しそうですよね。京都も楽しいけど、どこか鬱屈した空気が蔓延してる感じがあって。ただその鬱屈が下地にあるからこその作品や芝居もありますけど。
- ___
- 時間が止まってるみたいな。
- きょん
- まあ、まさしくモラトリアムですよね。モラトリアムごっことでも言いますか。突き進んでいく楽しさは東京にあるなと思います。弟が今東京で活動してて、色んなことに気軽にチャレンジしてて、しかも次々に面白そうなつながりが出来て、って。すごく楽しそうです。「東京に来たら?」なんて、よく言われます。
- ___
- なるほど。でも、決断がいりますよね。
- きょん
- そうですね。ただやっぱり東京はチャレンジしやすい環境で、いいなぁとはなりますよね。
- ___
- それだけ東京は演劇やお笑いのフィールドとしても広がりがあるんですね。
- きょん
- そうなんですよ。京都にも面白いことも場所も多いけど、やっぱり東京は規模が違うし挑戦できる場所も多いなと思います。でも私は京都が好きだし、今の環境でできることもたくさんあるので、しばらくは京都、まあ関西を拠点にやっていきたいなとは思っています。
- ___
- 京都で活動することの魅力って何ですか?
- きょん
- やっぱり人と人との距離がめっちゃめちゃ近いところですかね。お客さんもそうだし演劇人同士もすぐに繋がれるし、その他色んなジャンルの人ともすぐ出会えるし。助け合える感じがあるんです。劇場も小さいところが多いから、お客さんの反応がダイレクトに伝わってきて、それがすごくやりがいになります。あと、京都の独特の空気感というか、歴史や文化が根付いている街で芝居ができるのも楽しいです。
- ___
- 京都の演劇シーンも独自の盛り上がりがありますよね。
- きょん
- そうですね。規模は小さいかもしれないけど、熱量はすごくあると思います。演劇だけじゃない表現者のみんなみんなが自分のやりたいことを持ってて、それを形にしようと頑張ってる人が多い印象です。
- ___
- 今後、どんな活動をしていきたいですか?
- きょん
- 活動…。とりあえず活動でいうと何かしらしたいって感じですかね。ただ最近は最終的にどの地域で活動しても結局どこも楽しそうだなぁ、と。最終的に芝居でも生活でも安定さえすればまあそれでいいですかね。安定の基準はふわっとしてますが、まあ安定。安定したい地域は決まってないかな。まあ、どこで安定してもいいと思うんです。京都で安定したっていいし、大阪でも東京でも。
コロナの時代を経た大学生演劇の

- きょん
- コロナ禍で一番不遇だなと感じるのは今の大学生、特に芝居をやっている学生たちかなぁ。飲みながら話すレベルの事かもですけど。私が大学生だった頃は、「伝統って何?」「先輩って何?」みたいな、伝統をうっとうしく感じてました。「自分で新しい時代を作っていこう!」っていう気持ちが強かったんです。
- ___
- いまに満足せず、自分達の時代を作ろうという意識があった。
- きょん
- そうなんです。でも、その「自分で時代を作るぞ」っていう気持ちがコロナで潰されちゃった。伝統も何もかも全部ゼロになってしまったところもあると聞きます。今の学生たちは自由だけど、演劇の中で自由になるためのルートやうまくなる方法も知らないのでは・・・。私たちが基礎練習としていたものがなくなっているとも聞きます。発声方法とか、身体性を高める練習とか。
- ___
- 断絶が起きていると。
- きょん
- そうなんです。私たちって、新世代と言われつつも伝統の恩恵も受けていて、どうすればうまくなるか、どれが努力の積み上げになるかは知っていました。でも今はどの努力が積み上げになるのかも分からないままの子たちがいる。でも反感感情だけは残っている。そんな印象ですね。
- ___
- 学生演劇の終焉。
- きょん
- 京都の学生演劇はまだ強いと思いますが、幅が狭い。上手くて面白い人はいるけど、そういう人同士が競い合う感じがないような気がします。私は結構「しのぎを削ってたぞ」という自負があって、みんなやる気だったし「食っていくぞ!」って人も多かったんじゃないかな。でも今はそういう気持ち自体があんまりないんじゃないかな。
- ___
- 「バズりたい」とかも?
- きょん
- それもないんじゃないですか。てか、そもそも安直にバズるっていうのは危険ですしね。デジタルタトゥーはなかなか消せませんし。まあ、「学生時代は演劇を楽しめればいいや」「時が来たらちゃんと就職しよう」みたいな感じなのかなぁ。それはそれで正解だと思います。人手不足とはいえまだまだ新卒カードとかは強そうですしね。ただ、学生時代の演劇をどこまで本気で楽しめるか、その「本気の幅」を知らないまま卒業してしまうようなことが起きてるんだと思うと、もったいないような気もします。
- ___
- 日本の学校教育も、教科書だけじゃなくて社会性や道徳を教えているんですよね。演劇にも同じことが言えて、劇場で長い時間を一緒に過ごすのであれば道徳や社会性がすごく大事。開場時のアナウンスで言う「携帯の電源を切ってください」とかもですね。俳優さんの身体や発声にも、そういう根幹的な社会性は関わってくるように思います。
- きょん
- そうですね。発声練習や基礎的な体力、うまく立つ方法、滑舌などのテクニックも大事ですし、発声は本当に大切です。また、ハケたら静かにするとか音響は情景を表すために耳なじみ良いものにするとか。なんだろう、舞台上の社会を守るという事の大切さって言えばいいんですかね。そういった基礎訓練は板の上で生きる上での道徳や倫理になると私も思います。
- ___
- そういう訓練を積む経験が、舞台での見せ方や立ち方、言い方に現れてくるんですね。
- きょん
- そうなんです。もし今座組内外でも競争や基礎がないんだったら、ちょっとしんどいですね。コロナ禍で私たちの世代は「不遇だ」と言われてきたけど、今の世代は「不遇ですらあることに気づいていない」様な人もいるんじゃないですかね。ディストピアの中の人って、ディストピアにいることすら気づかなそう。怒り狂う人間がいないと革命も起きない。革命を起こそうという気概がある人がいれば、なんとかしようとそこに続くと思うんです。でも今は、「え?なんでそんなこと言われないといけないの?今のままで良くない?」って感じになっているところもあるらしく、中身の無い反感感情は単に可哀想だなと思います。若者としての形式的に一旦上には逆らっとこうみたいな。
- ___
- 手を差し伸べたい気持ちもありますよね。
- きょん
- 傲慢ではありますがね、こちらとしても。でも「一緒にやろう」って声をかけて見てはじめてハッとする人もいるかもしれないですしね。そう思えば私は「古き良きなんて信じない。新しきや、自分たち自身のモノに気づいてやる」でやっていたような気もしますね。バキバキに倒すぜ!ってな方向性の反感感情とでも言いましょうか。俺らが最強~みたいな。
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- 演劇や演じることは尽きないし終わらないけど、基礎がないと何かできないかもしれないですね。
- きょん
- そうですね。そういう意味では、私たちの世代は不遇だと思えば不遇だし、幸せと言えば幸せです。自分が培ってきた基礎で、やりたいタイミングでやりたいように芝居ができるのは幸せです。そしてあるべきタイミングで、「このままじゃいけない」って自分で気づくことを教えてもらえていたから。そうじゃない方たちは、やっぱり可哀想だなと思います。
キモさ

- ___
- そういえばきょん子さんは昔、ミスiDとかにエントリーしてましたよね。その関連で公開したブログ記事で、大学生演劇のキモさと熱さについて書かれてて感銘を受けました。
- きょん
- (笑)大学生演劇はキモイと思います。でも、キモいことは全部大学のうちにやるべきです。
- ___
- いい言葉ですね。
- きょん
- 留年も恋愛も、変な作品を書くのも、全部大学生のうちにやりきるべきです。おカネをどこかから出してもらえる大学生のうちに全部やりきったほうがいい。学生演劇って今どうなんだろうと思って、少し前に学生演劇祭を1ブロック見てきたんですけど全部すごく面白かったんですよ。キモくなくて、美しかったし、ちゃんと洗練されてました。全国まで上がってくる団体って、やっぱり審査員が洗練された作品しか選ばないのかなって思ったりもして。実験的な作品が残らなくなってきているのかな、とも感じました。1ブロックしか見てないので何とも言えないですけど。
- ___
- 実験して滑ったら残せないのかな?個人的には実験的な作品にも勝ち上がってほしいけど、次の人たちに彼らを見せてあげるべきかどうかの判断は難しそうですね。
- きょん
- 実験して滑ることも大事なのに、そういう作品が残らないのはもったいないですよね。滑ってる作品、残ってほしいです。いや本当はあったのかもしれないですし、見切れてないだけなんだとは思いますけどね。滑りって大事だと思うんです。「なんでこの作品がこんなところまで上がって来たんだ」っていう作品。芸人さんの賞レースなんかでもよくありますよね。
- ___
- 我々、「滑り」に魅了されてますね。
- きょん
- そう、「落下~」の時に「これは滑り芸に走りたい」っていうシーンがあって。滑り芸って本当に心臓が痛くなるんですよ。でも、滑り切って、滑ったなコイツって笑いが聞こえた瞬間の気持ちよさって、すごいんです。初めてまともに滑り芸と向き合ったんですけど、めちゃくちゃ気持ちよかったです。
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- お客さんとしては滑り芸に笑いとリアクションを返すのはすごく抵抗があるんですけど、心の中ではすごく盛り上がってます。
- きょん
- 「私、今滑り切ったんだ、嬉しい」ってなりました。滑ることは大切にしていきたいですね。滑ることを覚える。話を戻すと学生のうちにキモいこと全部やってキモいって言われて滑ることを覚えて、を演劇問わず全カテゴリでやりきるべきだと思います。大変だけど。学生で無理なら20代。30代になると相手してくれる人が格段に減るので。大人になって過去を振り返ったときに、当時の自分に対して「お前が感じてたことは全部正解だぞ」「もっとキモくあれ、お前はどう足掻いてもキモイ。それでも、今の自分自身が感じたことは全部正解。キモいのも含めて大丈夫。やりきったら案外全部大丈夫なんだぞ」って言ってあげれるような自分になるためにも。
- ___
- ありがとうございます。ちょっと心のつかえが取れました。
- きょん
- よかったです。
ギアT

- ___
- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってまいりました。
- きょん
- え!何ですか。
- ___
- どうぞ。
- きょん
- え!ギアだ。歯車だから?えーすごい。良いんですか。ありがとうございます。やったー。良いんですか?めっちゃ可愛い。騒いじゃいそう。