公園で
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- 今日は創造Streetの俳優・山本真央さんにお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします。山本さんは最近はいかがお過ごしですか?
- 山本
- よろしくお願いします。いまは出演していた公演が一段落して落ち着いてはいるんですけど、創造Streetの次回公演の準備が始まって少し忙しくなってきたかなという感じです。
創造Street
2015年1月18日。大阪芸術大学在学中にKENSUSAKIが立ち上げた。役者やスタッフと作品づくりを共有する機会が増え、1人では越えられない課題や力不足を感じる。1人で続けてきた活動を誰かと共有してもいいと決断。2020年にStreet1&Street2制度開始。新体制として始動。更なる活躍の場を目指す。2022年に学生限定のStreet3制度導入。創作の基準は創造性があるか、ないか。
「つきなみ」の思い出

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- 先日ご出演された、まど劇「つきなみ」について。10代の恋愛のお話で、山本さんは七瀬役でしたね。あの元気印の。ご自身にとってはどのような経験でしたか?
- 山本
- あの役はもう本当に、好き放題やらせてもらったという感じです。にさわさんが細かく指示するのではなく、みんなが思いついた通りに動いてよかったので、伸び伸びと芝居をしました。以前、安住の地の「暗室」で私がいただいた役があまり舞台上では動かない役だったのでそれを見て、「もつこちゃんはもっと動けるのに」と。「解放してあげたい」と当て書きで書いてくださって。
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- おばあちゃんの初盆の時に、空に飛び出してしまうぐらい躍動感のある夢のシーンが印象的でした。
- 山本
- 動いている私が見たかった、と言っていただいて。大好きなシーンでした。毎公演、音響と照明とセッションしていてとても楽しかったです。
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- 公演も、そして裏側も、とても和やかだった公演だったのかなと思います。同じく「つきなみ」に出演された内藤彰子さんに先日インタビューさせていただいたのですが、まど劇の稽古は近況報告から始まると伺いましたが本当ですか?
- 山本
- はい本当です。「最近どうですか?」から始まって。ゴハン食べてきましたとか眠たいとかなんでも良くて。稽古期間が続くと話すことがなくなってきて、SNSの運営がしんどいなんて愚痴を言ったり、「こういう本を読んだ」「国宝を見たよ」とか、そういう雑談をみんなでしてから稽古してました。
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- 拝見していて一体感があると感じたのですが、それは個性を抑えるのではなく、それぞれの個性が伸び伸びと発揮された上でのまとまり方だったように思います。雑談が何か土台を作っていたのかなと思います。
- 山本
- 皆さん優しくて穏やかで、何でも話せる雰囲気でした。本当に温かい座組でしたね。本番中、舞台袖にはけた後も少しお芝居を続けてくださる方がいたり、みんなで笑いながらやっていました。
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- 全員で上演している感じが、とても好きでした。
- 山本
- 上演途中で作戦会議もしていました。私は独白シーンの後に休憩があったんですが、その時控室に戻ってきたメンバーと「今日のお客さんはしっかり見てくれるから、後半はこうしよう」と話し合って。その内容を後から戻ってきた別のメンバーに伝えて、四人で後半を演じていく、というリレーもしていましたね。特に修学旅行のシーンはそうでした。あの時間は楽しかったです。
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- 聞いててわくわくしますね。
- 山本
- 本当に楽しかったです。
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- まど劇へのご出演はずっと続いていますよね。
- 山本
- 最初の出演は、劇団ヨアガキの興梠さんににさわさんが「いい役者さんはいないですか?」と尋ねてくださってからのご縁でした。あ、それと、星崎役だった吉岡莉来さんは私の大学の先輩なんですよ。
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- そうなんですね。
- 山本
- 私が1回生のときに4回生で、一緒に授業を受けたりしていました。こっぱさん(吉岡さんの愛称)に再会できて、ずっと一緒にお芝居をさせてもらえて、縁が繋がっているなと。すごく嬉しいです。
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- そう考えると、やっぱり縁は出演をつなげていくものなんですね。
まど劇「つきなみ」
公演期間:2025/7/17~20。会場:京都市東山青少年活動センター 創造活動室。脚本・演出:にさわまほ 出演:高田晴菜(ニットキャップシアター)、内藤彰子(喜劇結社バキュン!ズ)、畑迫有紀、山本真央(創造Street)、吉岡莉来
人そのもの

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- 座組の関係性って作品にとってもやっぱり大事ですよね。稽古場の時間が本番を支えている訳ですからね。山本さんは、新しい座組に入られた時どう関わり始めることが多いですか?
- 山本
- けっこう自分から声をかけに行きますね。創造Streetでは稽古の最初からメイキング映像を撮影していて、私が撮影係をすることもあるんです。カメラを回しながらだと自然に人に近づけるので、初めての方とスムーズに話すことができるのかもしれません。
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- じゃあピッタリですね。ちなみに創造Streetではそうしたメイキング映像をDVDに収録されているそうですが、座組の様子を結構お客さんに見てもらいたいんでしょうか。
- 山本
- 公演を観に来られなかった方にも、どういう公演だったのかが伝わると良いなと思っています。それに、稽古の様子を動画で記録・共有することは、ハラスメント防止や、演出の確認にも繋がるので、良いことだと感じています。あと、お客さんに見てもらうことで、役者の素顔を知ってもらえたり、「この人、実はちょっとおっちょこちょいなんだな」と親近感を持ってもらえたりするかもしれませんね。普段あまり表に出ないスタッフさんの「ここをこだわった」という話を聞けるのが、私は一番好きです。
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- 分かってきた気がします。個人的に最近、海外ドラマの世界に入り込めなくなったのですが、代わりにテレビスタッフの旅行の様子などを映すような、スタッフサイド的YouTube番組をなぜか見てしまうんです。それはもしかしたら、作られた世界よりも人間の愛嬌が見たいからなんでしょうね。
- 山本
- 人が映っているのを見ると安心しますよね。
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- ええ。だからか、「つきなみ」の上演中、物語以上に登場人物の人格そのものを好きになるような空気感がありました。
- 山本
- 私も友達に「踊ったり跳んだりしている山本さんが見られてよかった」と言われました。そういう意味で、人そのものを見てくれたのかもしれません。
暗室の思い出

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- 安住の地「暗室」についても伺います。現像作業という人の所作に焦点が当てられた、珍しい演劇でしたね。
- 山本
- 舞台上での居方が難しくて面白かったです。私は大佐役の中村彩乃さんとご一緒したのですが、上下関係がある役なのでどこまで感情を出していいか、感情を削ぎ落としすぎると棒読みになっていないか、と二人でずっと悩んでいました。
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- 上司とのやり取りは、会話劇というより業務伝達に近いですからね。
- 山本
- でも、脚本の私道かぴさんが書く言葉の力があったので、途中からは言葉を信じようと。だんだんと、アイコンタクトでの演技にシフトしていきましたね。特に京都公演はお客さんとの距離が近かったので、かぴさんから「その目の開き方は早すぎる」といった細かい演出がありました。
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- 観客は俳優の目をよく見ていますから、目の演技にクローズアップするのは自然といえば自然ですかも。そしてそもそも、現像作業というルーティーンに着目したのが面白いですよね。
- 山本
- はい。冒頭の片嶺穂乃佳ちゃんの動きが本当にすごくて。まさに職人のような、ブレのない綺麗な動きのおかげで、お客さんもスッと作品の世界に入り込めたんだと思います。あと、立命館大学の写真研究会へ暗室を見学しにいったんです。見学させていただいたおかげで、ラストシーンの動きなどもみんなでアイデアを出し合えました。
安住の地「暗室」
公演期間:2025/2/27~3/2(東京公演)、2025/3/18~24(京都公演)。会場:アトリエ第Q藝術(東京公演)、ライト商會(京都公演)。脚本・演出:私道かぴ 出演:中村彩乃 にさわまほ(以上 安住の地) 片嶺穂乃佳 鈴木真理子(SPAC‐静岡県舞台芸術センター) 山本真央(創造Street)
質問 田中陽太さんから山本真央さんへ
いままで・・・

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- 山本さんはバレエをやっていらっしゃったんですよね。
- 山本
- はい。ちょうど受験を考える時期に、専門の高校に進むか悩んだりもしました。上手くなかったのに(笑)専門の高校を受験するのはやめ、バレエもその時にやめました。
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- その経験が今のベースになっていると感じることはありますか?
- 山本
- あります。役立っていると思います。回転するときの体幹はずっと残っているので、スローモーションで歩くときとか、動きの軸はしっかりしているなと感じますね。あと、コロナ禍で外出できなくなった時期に、家で好きな曲を聴きながら即興で踊るのがすごく良いストレス発散になって。今もたまに。最近では「山本さんの即興ダンスが好きだから何か一緒にやりたい」と声をかけていただくこともあり、経験が繋がっているなと感じますね。親に感謝です。
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- 即興で踊るのは楽しいですか?
- 山本
- ニコニコ動画の「踊ってみた」を見るのが好きな時期があって、歌詞に合わせてパントマイムをしたり、音に合わせて動いたりするのを真似するのが楽しいんです。今まで聞こえなかった裏の音を拾ってたりする人もいて、音楽の聴き方が変わったように思います。
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- でも、踊りは難しいですよね。踊りや、イメージを探り出す世界。自分の世界に酔いすぎると途端に難しくなってしまいますし。
- 山本
- 分かります。演者が「可愛いでしょう」「かっこいいだろう」というのを押し出してくると、見ていられないですよね。『つきなみ』のときも、しっかり踊ったら「ダンスをしないで。ゆるゆると動いて」と言われました。あまりに演者が酔いすぎると、お客さんは引いてしまいますから。難しいですけど、いろいろ試してみるしかないですね。
もっちりした会話劇

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- 創造Streetの次回公演について教えてください。
- 山本
- 来年の1月に、10周年記念公演を行います。主宰のKENSUSAKIさんが「もっちりした会話劇」と言っていたので、それがどんなものになるのかとても楽しみです。
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- 「もっちり」、食感が良さそうですね!
- 山本
- ええ。廊下やキャットウォークを使った演出もするかも。いや、でも、過去公演でしたことだからないかな。どうだろう。きっと面白いことになるだろうなと期待しています。
これから

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- いつか、どんなお芝居ができるようになりたいですか?
- 山本
- たくさんありますが三つ挙げるとすると、一つ目はいま少年役が多いので、きちんと実年齢の役を演じられるようになりたいです。若い役だと呼吸が浅く早口になりがちなので、もっとどっしりと構えられるようになりたいですね。
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- なるほど。二つ目は。
- 山本
- 大きな舞台に立つようになっても、自然な喋り方でお芝居ができるようになりたいです。会場が広くなるとどうしても喋り方が硬くなってしまうのがあまり好きではなくて。「その人が本当にそこにいて喋っている」と感じられるような存在感のあるお芝居がしたいです。三つ目は会話劇ですね。数年前に餓鬼の断食を観て、会話劇の面白さに目覚めたんです。言葉になる前の息づかいや小さな音が感情を表していて、「そういうのもセリフとして使っていいんだ」と衝撃を受けました。それまでは台本に書かれたことしか喋ってはいけないと思っていたので。
THERMOSの水筒

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- 今日はお話を伺えたお礼に、プレゼントを持ってまいりました。
- 山本
- ありがとうございます。あ、すごい!可愛い。150ml!ちっちゃい!何を入れるんでしょうね。
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- 小さすぎますかね。
- 山本
- でもこのサイズだから助かるという人も絶対にいますよ、お子さんがいる方とか、粉ミルク用のお湯を入れたり。
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- いろいろな使い方がありそうですね。本日はありがとうございました。