いつか粉になって
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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。織田さんは、最近はいかがでしょうか?
- 織田
- 宜しくお願いします。最近はそうですね、とてもありがたい事に途切れる事無く芝居に関われていて。良い感じでボロボロになりそうです。
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- ボロボロになると、どうなるんですか?
- 織田
- 僕結構、ボロボロになるのが好きで。小学校の頃からサッカーをやっていて、ギリギリまで走ったり、がつがつボールに当たっていって。危険なんですけど。稽古で疲弊するのは、気持ちいいですね。
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- それは、カッコ良さですか?
- 織田
- カッコいいというよりは、生き急いでいる感じがしてて。命を削っている感覚が好きなんですよ。のんびりしたいというのもあるんですが、どんどん削って、30か40くらいで粉になって消えたいというのがあります。楽しいというより、今日も削れたなと実感出来るのがいいんですよ。
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- 実感出来るのがいい。
- 織田
- オフになるとスイッチが切れて、ぼーっとしちゃうんで。演劇をしていないと何をしているのか分からなくなってしまうんです。
ニットキャップシアター
京都を拠点に活動する小劇場演劇の劇団。1999年、劇作家・演出家・俳優のごまのはえを代表として旗揚げ社会制度とそこに暮らす人々との間におこる様々なトラブルを、悲劇と喜劇両方の側面から描いてゆく作風は、新しい「大人の演劇」を感じさせる。日常会話を主としながら、詩的な言葉を集団で表現することも得意とし、わかりやすさと同時に、観客の想像力を無限に引き出す奥深さも持っている。(公式サイトより)
これどうですか?
- 織田
- 今は役者の他に小道具とか作らせてもらってるんですが、作るのが好きなんですよね。
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- なるほど。分かります。
- 織田
- むしろ本番より、稽古とか製作とかの方が好きで・・・本番も当然好きなんですけど。例えば本番当日に、アップで体を起こしたりする時間とかよりは、稽古でシーンを作っていくのが好きなんですよ。体を起こすためにうシーンをやったりとかじゃなく。
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- 確かに、本番直前は新しく何かを製作する時間ではありませんからね。
- 織田
- 最近出演させて頂いた「林檎の木の真ん中の心臓」とか、ニットももちろんそうですし、夏に出た少年王者舘も。演技を作る時に「これどうですか?」って出演者同士で会話するのが好きなんですよ。
第26回国民文化祭・京都2011「現代演劇の祭典」、企画委員会プロデュース公演「林檎の木の真ん中の心臓」
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- 「林檎の木の真ん中の心臓」。千秋楽に拝見しました。大変面白かったです。出演者が20名以上でも、一人一人が思い出せるくらい立ってましたよね。どのような稽古場でしたか。
- 織田
- とにかく上の世代の方々と同じ空間にいられたのが貴重でしたね。もう演劇始めたばっかの浅っい人間ですから、何も分からない同然で望みました。
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- 織田さんが主に出てきたのは、第四章でしたね。朝平陽子さんと若夫婦を演じられていて。
- 織田
- 実は当初、キャラクター優先で演技を作っていたんですよね。最初は面白がられたんですが、だんだん他のほとんどの出演者と方向性が違ってしまったんです。
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- というのは。
- 織田
- 演出の方針はもちろん、上の世代の方は、気持ちで舞台に立つ事が出来ているんですよね。「そう想って舞台に立っているだけでいいんだよ」って、演出のキタモトさんに言われました。役柄上、色々と面白い動きは出来たんですけど、ニットではそれで通る事もあったんですけど、考えたネタが役柄を外れたり、作品のバランスを崩したりしていたんです。
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- なるほど。
- 織田
- 稽古場で参考になったというか、凄いと思ったのはやっぱり岡嶋さんだったんです。僕は面白い事をやると役から外れるという事で悩んでいたんですが、岡嶋さんは役に合った外し方をするんですよね。俳優として芯があるからなのか・・・。で、稽古場でのスタイルも、役に合った外し方を沢山試されるんですよ。試した上で、どれかを選択するんです。引き出しの多さ、選択の仕方に、経験の深さを感じました。
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- 今は、どのように思われますか?
- 織田
- もっとやれたんじゃないかと思っています。キャラ作りと調整で行けると思っていたんですが、そうではなかった。テンポとかも全然違った。爪あとみたいなのを残せればと思って空回りしちゃっていたんです。本当に、朝平さんとの関係で作らないといけなかった。
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- もし同じ舞台に立っていたのであれば、そのやり方は空気を通して伝わったというように思います。
- 織田
- そうだといいですね。やっぱり明らかに、他の方々は気持ちで立っていて、「それで立てるんだ!」て感心したんです。
第26回国民文化祭・京都2011「現代演劇の祭典」、企画委員会プロデュース公演「林檎の木の真ん中の心臓」
公演時期:2011/11/2〜3。会場:京都府立文化芸術会館。
質問 西 真人さんから 織田 圭祐さんへ
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- 前回インタビューさせて頂きました、西真人さんから質問を頂いてきております。笑顔を作ってと言われたら、どうしますか?
- 織田
- あ、僕笑うとすっごい笑顔になっちゃうんですよ。だから、極力力を入れて笑わないようにしています。
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- そうなんですね。普通に笑うと?
- 織田
- こういう風になります。
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- すっごい笑顔!
舞台に立てる身体
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- 織田さんは、どういうところからニットキャップシアターに入られたのですか?
- 織田
- 実は、***に入っていて。
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- あ、そうなんですか。
- 織田
- そこを卒業して、何をしようかと思っていたんです。でも随分前から、演劇をやってみたいという気持ちはありました。近い事をしていたとは言え、知らない世界だったんですよね。高校の時に演劇の発表をする授業があったんですが、その時に教えて下さった方に話してみたら、同じ高校出身者だった高原に会えまして。そこから「愛のテール」 の稽古見学に参加させて頂きました。
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- いかがでしたか?
- 織田
- 見学している僕が緊張していたんですよ。でもぼーっと見ているだけなのは何か違うなと、せっかくだからとメモをずっと取ってたんです。「なんだあのメモは」って思われていたみたいで(笑う)。そのうち、「良かったらスタッフとして参加してみませんか?」と、今に至ります。
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- 初舞台は。
- 織田
- 「クレームにスマイル」 です。演技って思っていたよりむっちゃくちゃ難しいと思いました。他人から与えられたセリフをやるというのは、意外に動けない。どうしていいか分からないという戸惑いがありました。
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- その不可能感は、もしかしたら「林檎の木」で覚えられたものと根っこは同じかもしれませんね。
- 織田
- それはありますね。「クレームにスマイル」はキャラクターとか分からなかったから、なおさら。ただ、キャラを作れば僕は動けるという実感があったんです。立っていられるんです。
ニットキャップシアター第23回公演「愛のテール』(再演)
公演時期:2008/2〜5。会場:名古屋、大阪、東京、福岡。
ニットキャップシアター第24回公演「クレームにスマイル』(再演)
公演時期:2008/11〜12。会場:ART COMPLEX 1928(京都)、下北沢 ザ・スズナリ(東京)。
やっぱり通じているんですね
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- キャラ作りではなく役作りについて。どのようなアプローチがご自身にあると思われますか?
- 織田
- 僕は、演じている役の気持ちというのは見ているお客さんには分からないんじゃないかと思っているんです。僕もお芝居を見るときは、こういう気持ちなのかなというのが分からなかったり。でも、「林檎の木」で上の世代の方々の芝居を見ると、気持ちで立っている事の安心感があるんですよ。あ、立っているって。僕も、そうした安心感を持てるようにしたいなと。
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- 逆に言うと、織田さんの持ち味である不安定感や奇妙さというのとは相反するかもしれませんね。客席から見ていると、対象が人間である以上、どこか気持ちというのは見える事もあるかなと。
- 織田
- 気持ちが見えるんですね。
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- ええ。
- 織田
- それは、僕にとっては結構嬉しい事ですね。いや、僕が出来ているとかではなくて。やっぱり通じているんですね・・・大丈夫なんですね。
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- いえ、やっぱり分かりますよ。本当に。
気味悪さだったりおぞましさだったり
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- 今後、織田さんはどんな感じで攻めていかれますか?
- 織田
- 色んな役を死ぬほどやっていきたいですね。今回の役はこの役でした、ではなくて。複数の役を一人で引き受けてみたいです。
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- なるほど。
- 織田
- 「チェーホフの御座舞」 の時に、そういう役割だったんですよ。それが僕の中で一つの手応えだったんです。複数を分けてやれるなあって。これは僕の欠点でもあるんですが、積み重ねが出来ないタイプだと思うんです。つまり引きずらないから、切り替えるのが得意なんです。
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- 切り替える。
- 織田
- その末に、気味悪さだったりおぞましさだったりを表現出来たらと思います。奇妙さを表現するのに、体を使ったダンスに興味があります。人間らしくない動きとか・・・。
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- あ、ちょっと分かります。
- 織田
- 少年王者舘でも夕沈さんが振り付けをされていたんですが、バレエでもヒップホップとも違う、動きと言った方がいいようなダンスがあって、いい経験になりました。次の「さらば箱舟」で佐藤さんに振り付けと出演をお願いするんですが、凄く楽しみです。
あうるすぽっと+京都府立文化芸術会館+ニットキャップシアター+モノクロームサーカス 共同プロデュース『チェーホフの御座舞 〜『結婚申込』・『結婚披露宴』・『三人姉妹』〜』
公演時期:2010/12月。会場:京都府立文化芸術会館(京都)、あうるすぽっと(東京)。
ポーチ
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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持ってい参りました。
- 織田
- ありがとうございます。いま見ちゃって大丈夫ですか?
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- もちろんです。
- 織田
- (開ける)あ、ポーチですか? ちょうどこういうの欲しかったんですよ。うわあ。嬉しい。
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- ホントですか。