DULL-COLORED POP vol.16「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」

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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、百花さんはどんな感じでしょうか。
- 百花
- 最近は、二つの作品の稽古を同時に進めています。15 minutes made で上演する「全肯定少女ゆめあ」と、「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」ですね。
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- どちらも拝見します。まず「ゆめあ」はどんなお話なんでしょうか。
- 百花
- ゆめあという小学校一年生の女の子が、世界を救えるのかみたいな話です。
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- 魔法少女ものですね。
- 百花
- そうですね。15分にまとめるには尺が足りないと、今試行錯誤しています。
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- 楽しみです。そして、「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」は再演ですね。全国各地で上演予定とか。
- 百花
- そうなんです。15 minutes madeの本番が終わった翌日に東京での公演の本番が始まるんですよ。
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- ヤバイですね。
- 百花
- えへへ。ダルカラはいつもこんな感じです。ヤクザみたいな。
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- 百花さんは、自分たちDULL-COLORED POPの事をどんな風に捉えていますか?
- 百花
- うーん。大人になりきれない大人達、ですね。人間的にやっかいな人が集まっている気がします。みんな性格や気質が違うし、みんな一物を持っている人が集まっています。でも悪い人はいないです。だからやってこれたのかもしれません。
DULL-COLORED POP
2005年11月、明治大学文学部演劇学専攻および明治大学脱法サークル「騒動舎」を母体に、『東京都第七ゴミ処理施設場ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』で旗揚げ。主宰・谷賢一を中心にゆるやかにメンバーを入れ替えながら活動する演劇ユニット。重厚な悲劇からくだらないコメディ、ロック・ミュージカルや翻訳劇まで手掛け、演劇の可能性を隅々まで追求する欲張り劇団。人間性の最も暗くグロテスクな一面を、物語性に立脚したあくまでポップな言葉とスタイルで描きたい。(公式サイトより)
15 minutes made vol.13
公演時期:2015/8/19~25。会場:王子小劇場。
DULL-COLORED POP vol.16「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」(再演)
【キャスト】
東谷英人 大原研二 塚越健一 中村梨那 堀奈津美 百花亜希(以上DULL-COLORED POP) 渡邊りょう(悪い芝居)ほか
【作・演出・美術】
谷賢一(DULL-COLORED POP)
【東京公演】2015年8月26日~30日 @王子スタジオ1
【大阪公演】2015年9月1日~2日@in→dependent theatre 2nd
【岡山公演】2015年9月4日~6日@天神山文化プラザ、蔭凉寺
だから、知らない事ばっかり

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- 百花さんがお芝居を始めたキッカケを教えてください。
- 百花
- 私は学生演劇も何もやっていなくて、始めたのは大人になってからなんです。普通に働いていて、ある日突然、昔舞台を見た事を思い出したんです。そこに出ている女優さんに「いいなあ」って思ったんですが、それが大人になってからよみがえって。あの頃思ってた、役者みたいのを今からでもやれるかなと。そこで突然会社を辞めて、素人でも大丈夫みたいなオーディションを受けたんです。当時、それこそ演劇をやってる人なら誰でも知ってる鴻上さんの事とかも全く知らずに。
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- それは凄いですね。
- 百花
- 知り合いの人が、鴻上さんは演劇界では知らない人のいない凄い人だと言ってて。それで受けてみたのがKOKAMI@networkで。
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- それから駆け足で来ましたね。DULL-COLORED POPまで。
- 百花
- ダルカラも入るとは思ってなかったですね。
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- でも、社会人から演劇を始めるどころか脱サラして演劇を始めるって、もはや理想的ですよね。
- 百花
- そうですかね。私の理想は子役から始まって、大学でも演劇を専攻して知識を深める、みたいなのが理想だったんですよ。経験も知識も身につけていく。私はもう、現場ばっかりで知らない事が多すぎて。
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- 今でも、知らない事ばっかり?
- 百花
- はい。もっと若い頃からやってればとよく思うんです。でもそれを言ってもしょうがないので。
ねこちゃん達が来る
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- 「くろねこちゃんとベージュねこちゃん」。大阪では開演前に、お客さんを盛り上げるみたいなコーナーがありましたが、そこに難航していた印象があります(私だけかもしれませんが)。ただ、案外大阪のお客さんはそこは厳しい。うーん、当事者に何年も前の事を言っても、とは思うんですが・・・
- 百花
- いえいえ、全然。
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- 大阪のお客さんは上手に乗せてあげないといけない。あるいは、押していくより引いていく方がいいのかもしれない。あの時のねこちゃん達は真面目にピエロを演じていたような気がするんです。笑いを取るとき、モーターショーで例えるなら車線からはみ出さないハンドリングをしていたんじゃないか。大阪でのそれは観客席に全力で突っ込むんですよ。いやこれは本当にそういう事をお客さんが望んでいるような気がする。
- 百花
- 何となく伝わりました。それは技量のなさだったと思います。自分も、初演を思い出すとまだまだだったなと思います。その辺り、今回はまた初演よりはパワーアップしていきたいなと思います。
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- 失敗していてもいいと思うんですよ。失敗を面白がれる余裕が大阪の観客席にはある。東京での失敗は、そのままスベる事を意味しているんじゃないかなあと思う。あくまで丁寧さを大切にする姿勢がある。
- 百花
- 何となく分かります。今回は、頑張りたいですね。
誰に届く声

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- いま、興味がある事は何ですか?
- 百花
- うーん。声ですかね。俳優をやっていると、日常も舞台も地続きなところもあるんですよね。昔は分けて考えてたんですが、今は日常から色々影響を受けて、日常から舞台に持っていった方が良いところもあるなあと思うようになって。声についてだったら・・届く声を持ちたいです。
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- それは、誰に届く声の事でしょうか。
- 百花
- 相手役にも、お客さんにも。小さい劇場ならともかく、大きな劇場だと奥のお客さんにまず届くのは声だと思うんです。そこに興味がある感じですね。
役づくりの底にあるもの

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- では、最近ご覧になった、うまい演技と凄い演技を教えてください。
- 百花
- 正直言ってしまうと、あんまりうまいへたがわからないんです。ただ、自分がワクワクすると惹かれるなあと。具体的にはちょっと思い出せないですが・・・。あ、そうだ。稽古場で共演者がダメ出しを受けて、その演技が変わっていく様を見て「凄い」と思いました。
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- というと。
- 百花
- 最初の演技が、演出家の指示を受けて、良くなっていく。いまは演出家の谷が稽古場にはいないこともあるので、お互いにダメ出しをする事が多いんですけど。
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- 結局、一つに絞っていく事。大変な積み重ねですよね。百花さんがこれまでで一番苦労した役は?
- 百花
- 『プルーフ/証明』という作品のキャサリンという役ですね。あれは戯曲がとても良かったんですが、天才数学者の役で。
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- 自分と性格が違うとか?
- 百花
- そういう事ではなかったんですけど、気持ちのアップダウンが激しい役で。あと、自分の歴史にはない経験をしているので、その想像をたくさんしないといけないんですね。お話以前の段階を作るのに時間が掛かっちゃったなあと。
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- それがお客さんに届くには、一体どういう事をすればいいんですかね?
- 百花
- ねえ。まあ映画を見たりだとか、実際に近い事を体験したりだとか。ひたすら文字にしてたりもしてました。そうしていくと日常がどんどん歪んでいく感じがありましたね。中々、デジタルに出来ない人間なので。感覚に近いものを引っ張ってくるしかないんだと思います。
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- 芝居を見ている時にしかない感想ってあると思うんですよ。触れている時にしかないもの。それは言葉にならない、意識に上らない層のやつ。一緒の空間にいて初めて発生する感覚。役作りは、そこに影響していくのかもなあと思います。
- 百花
- そうですね。
質問 中村 真利亜さんから 百花 亜希さんへ
その役の意識の中にいる

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- いつか、どんな演技が出来るようになりたいですか?
- 百花
- オールマイティな俳優になりたいです。今回はねこちゃんですけど、人間かどうかとか老若男女関係なく。毎回いろんな役をやれたら嬉しいです。もちろんまだまだだとは思いますけど。
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- ありがとうございます。では、最近の演技を作る上での気づきを教えてください。
- 百花
- 気づき。うーん。普段見逃している事にこそ焦点を合わせること。
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- というと。
- 百花
- 普通生きていると、例えば何かに気づいてもそれはあやふやになっていくんですけど、でもお芝居をする上ではそれについて意識を向けて考えて・・がすごく大事だったりもすると思います。例えばいまこういう風に話をしていても、私のことで何を考えているんだろう、みたいな。「こいつ俳優のくせにそれらしい事言ってないな」とか思ってるかもしれない、みたいな。日常的な会話じゃないからそういう風な思考が勝手にわいてくるんですけど、自分がこういう状態になるということに自覚的になる、みたいなのが俳優の仕事なのかと思っています。自分がどういう状態なのかを意識して俯瞰で捉えるのが。
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- 自分の意識がどういう状況にあるのか、自覚的になるという事ですね。
- 百花
- お芝居だと、台本に書かれている台詞を相手に向かって喋るだけなんですけど、本当はそういう事だけじゃないのかもしれない。そう思うんです。本番中は、演じている役の旅に乗っかる感じですね。あとはお客さんの状態を見たり。人によっては全然違う事を考えたりが出来るみたいですが、私の場合はそんな感じです。
人間を演じる

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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?
- 百花
- ええと、あんまり攻め派ではないんですけど・・・DULL COLORED-POPが来年休止しちゃうんですよ。逆に言うと新しい現場に行けるという事なんで、色々といい現場に携わりたいです。いい出会いもあるだろうし。今まで行った事のないところのオーディションを受けたり。そういう意味では攻めるという事になるかもしれないですね。
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- ありがとうございます。では、いつか、一緒にお仕事をしたい人や劇団はありますか?
- 百花
- いつか永井愛さんとお仕事がしたいです。お話を聞く限りでは、作品の作り方が私のやりたい事に近いみたいで。結局、人間を演じる事に興味があるんですね。
ヘアバンド

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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントを持って参りました。
- 百花
- ありがとうございます。開けていいですか?
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- もちろんです。大したものじゃないですが。
- 百花
- (開ける)あ、可愛らしい。ありがとうございます。