匿名劇壇第五回本公演「二時間に及ぶ交渉の末」

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- 今日はどうぞ、よろしくお願いします。最近、福谷さんはどんな感じでしょうか。
- 福谷
- いまはとりあえず公演真っ只中で、それが終わっても最近はもう色々やる事があって。充実しています。
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- 演劇を抜いたらどんな感じですか?
- 福谷
- それ以外はもうバイトしかしてませんね。コンビニとカラオケと。これから一人暮らしを始めるにあたって、コンビニの方を辞めました。
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- なるほど。匿名劇壇「2時間に及ぶ交渉の末」、大変面白かったです。本公演は初めて拝見したんですが、伺っていた通りメタフィクションでしたね。メタフィクションである自分自身達にも言及するぐらいメタの構造で、それが表現する内容自体とも一体になっていて。ご自身としては、手応えはいかがでしょうか?
- 福谷
- そうですね、メタフィクションとなるとどうしても小難しくなっちゃうんですよ。それが今回、初めてうまくエンターテイメントに持っていけたと思うんですよ。
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- 福谷さんはメタフィクションを使ってエンターテインしたいんですか?
- 福谷
- そうですね。これまで作ってきたものは演劇に対してのリテラシーが必要だったんですけど、今回初めて、演劇が初めての人でも楽しめるものになったんじゃないかなと思います。
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- そうそう、そういう感想がtwitterにありましたね。誰でも純粋に楽しめるものになってました。
- 福谷
- そこは苦労してきたところで、玄人好みじゃない、内輪ネタでもない、違うものになれたかなと思います。
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- 話題になった前回公演「ポリアモリー・ラブ・アンド・コメディ」もメタフィクションでしたね。ドキュメンタリー映画の作家役が舞台上に出てきたり。あれは感情とかLOVEに食い込んでいました。今回はもっとエンターテイメントに徹したという感じですね。
- 福谷
- gateで上演した「奇跡と暴力と沈黙」なんかは、やっぱり演劇を見慣れている人が、俳優の頑張ってる感を面白がる込みの作品だったんですけど、今回はそんなの必要ない感じでしたね。
匿名劇壇
2011年5月、近畿大学の学生らで結成。旗揚げ公演「HYBRID ITEM」を上演。その後、大阪を中心に9名で活動中。メタフィクションを得意とする。作風はコメディでもコントでもなく、ジョーク。いつでも「なんちゃって」と言える低体温演劇を作る劇団である。2013年、space×drama2013にて優秀劇団に選出。(公式サイトより)
匿名劇壇第五回本公演「二時間に及ぶ交渉の末」
公演時期:2014/5/29〜6/2。会場:シアトリカル應典院。
(僕は気付いてる)

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- 今回の公演のパンフの文章、面白かったです。
- 福谷
- 読むの、大変でしたでしょう(笑う)。
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- いえいえ。読んで思ったんですが、自分達の作る芝居が誤解されて受け止められることに慎重になりつつあるような、そんな姿勢を感じましたが。
- 福谷
- それはどんどん警戒するようになりましたね。やっぱりメタフィクションみたいな事をやっていると、事実そうであると思われる事がやっぱり多くなってきて。それはそうではないんだと表明しておく必要があるなと。
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- 劇団主宰と舞台女優の恋愛関係、ね。あってもなくても良いとは思いますけどね。
- 福谷
- そういうスタンスでいてもらうのが良いとは思うんですけど、事実そうであると捉えられるのが望ましくないんです。それは女優にとって、ですが。
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- ですよね。誰と恋愛していてもその人自身の価値に関係はないですからね。
「人格を消費する」

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- 今回の最初のシーン、戦隊モノから入っていきましたね。もうこれはエンターテイメントであると宣言してくれていたような気がして、それを最後まで裏切らずいてくれて。俳優も全員面白かったです。まず伺いたいんですが、お客さんにどう感じてもらいたいですか?
- 福谷
- どう感じてもらいたいんかな・・・さっき言った事と矛盾してしまうんですけど、事実ではないと言いながらもやっぱり僕の作家性みたいなものは完全に入っているので、スタート地点は真実だったりもすると思うんですよ。スパイク・ジョーンズが好きなんですが、彼の映画には監督の苦悩が露骨に作品に出てきてるんですよ。僕はそれを見せ物として楽しんでもらいたいんですね。
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- 苦悩?
- 福谷
- いじめられている俺を見て笑ってくれ、という気持ちですね。お客さんに対して。
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- それはつまり、自分に同調してもらいたいと思っている?自分をネタにして面白がってもらいたい?
- 福谷
- そうそう、そうですね。
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- それを面白いと思うようになったのはどこからですか?
- 福谷
- うーん、割と昔から、かな。作り込んだものよりも、ハプニングの方が面白いみたいな感覚ってあるじゃないですか。僕らのやっている事はそれではないですけど、僕の想像力なんて乏しいので・・・一番身近にある僕というコンテンツを消費してくれというスタンスですね。
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- なるほど。そういう企みに我々は見事に引っかかり、次も楽しみにしてしまうんでしょうね。その性向は、福谷さんにどのようにして備わったのでしょうか。
- 福谷
- 僕、元々お笑い芸人になりたかったんです。小学生から高校までそう思ってたんです。全盛期から今でも好きなのがロンドンハーツなんですが、あれはものすごく人格を消費する笑いで、僕はそうなりたくないから止めた一方で、でもそれがあるんだろうなと思いますね。
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- ロンドンハーツ、面白いですよね。あれは普通の雛壇番組とは全然違って、そこにいる人達の関係性を駆使した笑いと、さらに尊厳を蹂躙する事で生まれる快楽。
- 福谷
- それはもう人気番組ですからね。みんな、それを求めてるんだろうなと。
あの時に言うべきだったセリフ
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- お客さんに、最後はどう思ってもらうのが理想ですか?
- 福谷
- 今回に限っては、泣かせようと思って書いてたんですよね。最終的にはそうなってないですけど。最後の方で劇団員に、「ずっと一緒にいよう」というセリフがあるんですがそれはまっすぐな気持ちで。台本だから、という透かし方逃げ方をしてたんですけど、言葉自体はものすごくまっすぐな愛の言葉なので。受け止めてもらいたいなと。
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- 受け止めましたよ。役者だと石畑さんがとても良かったです。彼が自殺者役の時に、解散した劇団の主宰だったと明かされて、ラストのシーンでシーンの垣根を越えてそれぞれの人物に「あの時に言うべきだったセリフ」が書いてある台本を示す演技がありましたね。その時の彼のまなざしが優しくて、多分あの表情がこの作品の象徴だったんじゃないかと思っています。
- 福谷
- 嬉しいです。
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- これはもう福谷さんの尊厳を蹂躙する見方なんですけど、いまこの作品を作った福谷さんは自分の限界が見えてしまっていて、あと5作品くらいでここまでは進めるだろうけどそれ以上は行けないだろうなという予感。それはこの脚本を書く時にはほとんど確信に変わっていて、それでも「ずっと一緒にいよう」と言わずにはおれない。その気持ちが石畑さんの役を借りて出てしまったという。
- 福谷
- そういう見方をされるのが一番気持ちいいですね。
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- でもきっと、この集団だからこそ作れた作品だったんだろうな、と思います。
福谷という病

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- 匿名劇壇の魅力を教えてください。
- 福谷
- ちょっと前までは僕の僕性を楽しむみたいな感じだったんですけど、最近はそうでもなくなってきていて。今年で4年目なんですけど、俳優にも伝播していって。これまでは石畑という役者が僕の真似をしているに過ぎなかったんですが、もう石畑の石畑性になっている気がする。彼がやっている僕は僕ではないな、というところまで行けてるんですよ。そこで成立している作品になってきたなと。それが最近の見所ですね。
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- 遺伝子が切り離されたという見方も出来ますね。劇団としての成立。
- 福谷
- そうですね。成立してきてますね。
役者の条件

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- 役者の魅力が引き立った今回。石畑さん以外にも、銃を突きつけられた時のイチイチ微妙なポーズになる松原さんのセルフボケツッコミや、佐々木さんの身振り手振りを交えた微妙なニュアンストークのシーンも良かったです。私の席からは芝原さんの顔が半分だけ見えて、意味不明な別れ話を告げられる理不尽さが引き立ってました。その後ろから冷静な福谷さんが見えていて、その絵が映像的で良かったですね。
- 福谷
- あっはっは。
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- 東さんの、まるでトラック野郎のような男口調が何故かやたら似合ってたし、杉原さんは声とアクションが素晴らしかったです。さて、福谷さんにとって魅力のある俳優とは?
- 福谷
- それ、この前twitterで書こうとして止めたんですけど・・・発汗を自分で調節出来るのが優れた俳優なんだろうなと思います。ていうような事をちらっと思いました。
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- あると思います。
- 福谷
- 自分の身体を管理出来る人。
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- 私がいる劇団に昔いた役者さんが、めっちゃ上手い人なんですけど、長台詞の間の瞬きの回数を調節出来ると称されてましたね。
- 福谷
- そうですよね、そこに自覚的であるべきですよね。ウチの劇団のメンバーがどうかというと出来てたり出来てなかったりするんですけど。意識が及んでいるのがいい俳優なんですよね。
匿名の矛盾

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- 福谷さんが演劇を始めたのはどんな経緯が。
- 福谷
- 僕は近畿大学の舞台芸術専攻に入ったのがキッカケですね。
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- なぜ近大に入学されましたか。
- 福谷
- 本当は東京の日大に行きたかったんですけど、経済的事情もあって。入るなら、ツブシの利く総合大学かなと思って。
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- 旗揚げしたのはどんな経緯が。
- 福谷
- 大学入って2年の頃。授業以外で自分の公演が出来るんですよ。2012年6月が旗揚げですね。
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- そのころからメタフィクションだったんですか?
- 福谷
- 旗揚げ公演が今回の作品みたいな感じでした。で、その一つ前のスタッフワークを中心に学ぶ公演のメンバーが、ほとんど今のメンバーなんです。東以外。カフカの「変身」を上演する劇団のバックステージもので、それも入れ子構造でぐっちゃぐちゃの作品でした。
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- なるほど。匿名劇壇では、今後どういう事をやっていこうと思っていますか?
- 福谷
- ちょっと前の「ポリアモリー」を作っていた頃は、まっとうな物語演劇を作ろうと思ってたんです。今はちょっと違って、例えば劇団の劇団性みたいなのが観客に事前知識として必要なのと同様、今回の作品は、僕が匿名劇壇の主宰であるという知識があって見た方が絶対面白いと思うんですね。劇団としてはそこをやりたいと思います。誰かが劇団を辞めたらその辞めた性が重要になってくる。そんな感じ。
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- 何故そうしたい?
- 福谷
- それが自分で面白いと思ってるから、ですね。演劇の何が一番面白いというかというと、生である、という事ですよね。それも、裏側込みの生。踊る大捜査線でも、ギバちゃんと織田さんが一緒に出ているシーンに、含みをもった面白さがあるんですよ。みんな、そういう部分はあると思っていて、僕らをそういうふうに消費してほしいですね。
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- スキャンダラスさを含んだ、ね。初めての人でも面白い内輪ネタが出来るようになってほしいですね。
- 福谷
- そうですね、それは素晴らしいですね。
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- いつか、どんな作品が書きたいですか?
- 福谷
- やっぱり、外に出ても引きずれる作品。寺山修司の街頭劇のような、劇場の外に出ても芝居が続いているような、そんな芝居が作れたらと思います。
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- なるほど。
- 福谷
- 事実と思われたくないと言ってる一方、客だしの時の僕らを見る目がちょっとおかしくなっている事が望ましいです。それがずっと引きずっているいるような。矛盾してますね、メタって。
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- パンフに、開場中は他の劇団のチラシは見ないで僕らの事だけを考えてほしい、みたいに書いてますね。
- 福谷
- そうですね。自己顕示欲というか。例えば芝居に人を殺した役が出てきたとして、「本当に殺してるんじゃないの?」と思わせたら勝ちですね。
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- なるほど。
- 福谷
- ポリアモリーの前にやったjerkという芝居で、劇団員との話をこっそり録音したテープを元に作った芝居を作ったんですよ。という体で実は全くの創作なんですよ僕の。
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- ええっ。
- 福谷
- それを、実際に録音したと思われたいです。
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- そういう福谷さんの、言葉は悪いですがかまってちゃん性に共感します。自分達を消費してほしいとか、ちょっと現代的な気がする・・・そんな言葉で表して良いのかわからないですけど、異質な感じがする。
- 福谷
- そうですね、自己満足には陥りたくないと絶対に思いますね。あくまで見せ物ですし、エンターテイメントですから。
質問 高田 百合絵さんから 福谷 圭祐さんへ
質問 根本 コースケさんから 福谷 圭祐さんへ
限界
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- 今回のインタビューで、こんな聞き方をされたかった等はありますか?
- 福谷
- 僕はもう消費されたい願望が凄いので。踏み込まれたいし、分析されたいし、そういう質問をされるのが嬉しいので。そう、「実際、劇団員とは恋愛関係に陥ってるんですか?」と聞かれて「いいえ」と答えたいですね。
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- 実際、劇団員の誰かと恋愛関係に陥ってるんですか?
- 福谷
- これはね、いいえ、なんですよ。
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- それを聞いて、私はほんの少しだけほっとするのと同時に時代は変わったなと思います。なぜ、恋愛関係にならない?
- 福谷
- それはやっぱり、恋愛に陥るのはアカン事やと思うんですよ。それは高校の先生が教え子に手を出すのと同じ事で。僕らは作品を作る仲間なんですよ。そこに余計な情報が乗っかって、良くなるみたいなイメージが全く湧かないです。付き合ってる、結婚している、というのって舞台上には基本的には良くない影響を与えるんじゃないか。何かの限界を設定してしまう、気がします。僕にとっては、仲間という関係が恋愛関係の上位だと僕は思っているかもしれません。僕らはそこを目指してるので。その手前で止まる人達は駄目でしょう。
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- 仲間の条件は?
- 福谷
- うーん、・・・自らの不利益を省みず、共通の目的に向かって尽力出来る事。これは、恋愛関係に陥ると出来なくなると思うんですよ。いや分からないから想像ですけど。芝居を作る人と恋しちゃったら目的もなくなるでしょう。
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- この間インタビューさせていただいた方がですね。自分が衣装をやっている劇団の仲間が息子や娘のように思えて可愛くてしょうがないっていってましたね。そういう関係性の有無が人生の幸せを決めると正直思ってます。闇金ウシジマくんでも度々、そういう仲間関係の重要さが出てくると思うんですよ。
- 福谷
- あっはっは。僕もめっちゃ好きです。僕はフリーターくんが好きですね。宇津井。
削られたい
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- 今後、どんな感じで攻めていかれますか?まあ、壁の花団出演もありますけど。
- 福谷
- そうですね、壁ノ花団 出演と、劇団Patchの作演も決まっているので、それをまずは頑張ります。攻める・・・僕は攻めたいというよりは、求められて削られたいので。何でもいいので、やらされたいです。基本は受け身なんですよ。
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- 削られたい。
- 福谷
- 多くの人に面白いと思ってもらいたいです。
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- 私は、匿名劇壇のメタフィクションがもっと洗練されていく事を願っています。だし、メタではないけれど面白いものがあったらそれを迷わずやってほしいです。
壁ノ花団第九回公演『そよそよ族の叛乱』
公演時期:2014/8/29〜8/31。会場:AI・HALL。
MOLESKINEのブックスタンド

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- 今日はですね、お話を伺えたお礼にプレゼントがございます。こんな夜遅くに申し訳ございませんでした。
- 福谷
- いえいえ。全然。嬉しいです。(開ける)あ、何ですかこれ。あ、なるほどね。かっちょいいじゃないですか。MOLESKINE。
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- それはですね、本やタブレットを立てておけるものです。この間gateで上演された作品で、タブレットを使っておられたようなので。
- 福谷
- あの時、これがあったら便利でしたね。
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- 何に使うか、考えていただくのも楽しいかもしれませんね。